次のフロアーではワイヤーフックを使っての移動が主となった。
数メートル高い壁の上から床へ飛び降りた途端、トラップが発動してわずかに緊張したけれど、すぐ近くの壁面を破壊して入った先にあった蛇の杖を操作して、案外あっけなく危険は回避されてしまった。
「何か、ちょっと拍子抜けだな」
眼下の様子をサーチツールで探りながら、呟く晃の隣で甲太郎がアロマの煙を燻らせる。
「ま、そういう場所があっても良いだろ、次行くぞ」
「ああ」
扉を抜けた先は再び深遠なる闇の中だった。
降りるぞと短く告げて、注意深く足場から飛び降りる。
「ここは、匍匐前進で進む場所らしい」
ナビの音声で状況確認した晃の声が響いた。
「敵は?」
「いない、でもこんなに沢山抜け道があるって事は、何かワナが仕掛けられてるはずだ」
「つまり選ぶ道順が問題ってわけだな」
「多分な」
そういえば帝等は大丈夫なのかと、闇の奥から晃が唐突に訪ねてきた。
「何故だ」
「だってそのコート、邪魔じゃないか?」
「要らぬ世話だ」
「ふうん、わかった、なら行くぞ」
前を行く気配に続くように、三人は狭い穴の中を匍匐前進で抜ける。
一番左端の穴から通路に出た先、立ち上がって避けようとしていた晃にうっかりぶつかって、甲太郎の声に悪いと謝られた。
「狭いから、気をつけないと、何が起こるかわかんないぞ」
「お前じゃないから大丈夫だ」
「何だとおッ」
ムッとする晃を邪魔になると横から体ごと押して、帝等がでてくるスペース分、更にその脇に避けさせながら、触れた温もりをわずかに腕の中に捕らえる。
どうやら―――辺りが暗いと、つい構いたくなってしまうらしい。
伝わってきた温もりに、クスリと笑って晃は腕にそろりと指先を這わせて、頬に触れる吐息の元を探り当てると軽く唇を重ね合わせた。
帝等が抜け出してきたのを確認して、さりげなくスルリと離れ、注意深く足元を窺いながら歩を進めていく。
「やっぱりトラップだ」
暗視ゴーグルで確認して、闇の中から注意を促す声が響いた。
「さっきの出口以外の場所に、変なタイルが置かれてる、踏むなよ」
「踏んだらアウト、ってことか」
「多分な、まあ、こんだけ暗いし、殆ど運とか確率の問題だろうけど」
晃はしゃがんだようだった。
ちょっと待ってと、低い場所から聞こえてくる。
「お前達ストップ、また匍匐前進だ、俺の後からついてきてくれ」
そのまま抜け道に潜り込む気配を察知して、甲太郎と帝等も再び後に続いて進んだ。
今度は一番右端の壁面間際、通り抜けた先で、カチリと機動音が響き渡った。
「オイ、今の!」
焦った甲太郎の声が聞こえる。
「まさか、失敗したのか?」
晃も、動揺してその場に立ち止まると、二人と対照的なほど落ち着き払った帝等の声が闇の奥から不意に響いてきた。
「ひとまず蛇の杖を探せ、罠が仕掛けられているならば、解除の方法もこの部屋にあるはずだ」
わかったの声と共に、動き出す気配。
後続の二人と共に、幾らか進んだ先で晃は壁を破壊して、蛇の杖を見つけ出した。
操作すると罠が解除されて、お馴染みの軽やかな雰囲気が訪れたのだった。
「し、心臓に悪いよなあ、こういうのって」
「お前が言うかよ、自分から飛び込んでくクセして」
言葉とは裏腹に、掌が気遣うように髪を撫でるので、彼のいる辺りをイタズラっぽく睨み返してから、晃の声が次行くぞと告げる。
三人は障壁の先、転送機の灯りを頼りに進み、順に上に乗った。
再び世界がぶれて、たどり着いた先、ここにも敵影は無い。
入った途端に作動音が聞こえてきて、何らかの罠が発動した様子だった。
今度は暗くない。
部屋を抜けて、いつのまにかすっかり機嫌が治っている甲太郎を見て、帝等は少し怪訝な顔をしている。
理由を知っている晃だけ、こっそり微笑んでから、通路の先に進み始めた。
「ここは跳躍力の訓練なのかな?」
必要最低限の足場以外をすべて排除した空間は、ジャンプを繰り返す必要があった。
そのために必要なAPは一度のジャンプに60もかかってしまうので、行動力が足りなければ確実にワナの餌食になっていただろう。
晃は、浮遊輪や甲太郎のステータス補正の効果もあって、AP206をフルに活かして難なく罠を解除する事ができた。
スイッチを入れるとこれまでと同じように物音がして、モニタに映し出された障壁が無くなる。
三人は次のフロアーへと進んでいった。
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