※ゲーム未クリアの方はお読みになられませんよう、ご注意申し上げます。
「Zero-Discovery」
夕暮れの校舎。
机をはさんで向かい合う、婦人とスーツ姿の男は何か話しこんでいる。
「ご家庭ではどういった教育方針を持たれているのですか?」
「彼には協調性というものがまったく見受けられません、それでは社会生活が成り立たないでしょう」
「今日もクラスメートに、ただ少しからかわれたというだけで暴力を振るったんですよ?」
一方的にまくし立てられながら、婦人は謝罪の言葉を並べてひたすら頭を上げ下げしていた。
あの、コップの水を飲むように上下する鳥のオモチャを思い出して、ふとおかしさがこみ上げてくる。
俺は今、ここにいる。
けれど世界は、俺を否定している。
西日の差し込む廊下には俺しかいない。まるで血の色だ。
小窓から覗くと、ようやく気が済んだらしいスーツの男に解放されて、婦人が退室する所だった。
俺を見つけた途端、悲壮な表情がその瞳に浮かぶ。
(お願いだから、そんな顔しないで)
そんな目で俺を見ないでくれ。
俺が何をした?何故そんなに傷つくんだ。
婦人の背後で男が睨んでいる。底冷えするような寒々しい眼差しだ。
世界は俺を否定している。
婦人がそっと囁いた。
「帰りましょう、ね?」
男は何も言わない。
汚物を見るような、蔑んだ眼の色がひどく忌まわしかった。
婦人は再び何度も頭を下げて、俺から少し離れて歩き始めた。
怯えているんだろう。もう慣れてしまった。
家を飛び出したきっかけはよく覚えていない。
多分、今では取るに足らない、くだらないことだったように思う。
何かから逃げだすように暗がりをさまよい、そして、俺と同じような目をした女に出会った。
―――彼女は優しかった。
けれど、彼女も世界から拒絶されていた。
俺たちは当然のように寄り添い、互いの傷を舐めあうように二人で暮し始めた。
つつましい日々の中、目を放すとすぐ居なくなろうとする彼女をこちら側に繋ぎとめて、俺は、俺の孤独をごまかすことに必死だった。
いつも泣き出しそうな顔をしていたことしか覚えていない。
それでも、天気のいい日、時折見せた、こぼれるような笑顔がたまらなく好きだった。
愛していた。
日々は、短い間に壊れてしまった。
彼女がよく笑ってくれた天気のいい日、空が、近すぎたせいだと思う。
今でも記憶に残る、赤い色、激しいサイレン、人だかり。
彼女の名残は一週間もアスファルトの上から消えなかった。
大雨の翌日、世界が途絶えたその場所に立ち尽くしていた俺を、父親の代理人が連れ戻しに来た。
俺は、あの薄暗い地獄で俺自身のために戦い、気付けば全てを失っていた。
多分厄介払いをしたかったんだろう。
次につれてこられた場所は監獄だった。
幾らかましな程度で、ここも何も変わらない。
けれど何も持たない俺には、苦痛すら惰性でしかなかった。
無為に過ぎていく日々の中で。
―――あの日、あの闇の底で。
突然現れた男は、俺に一繋ぎの鎖を突き出して言った。
「まるで死人のような瞳だな」
「死人が何故、このような場所で彷徨っている」
「お前に永久の眠りを与えてやろう」
「決して醒めない眠りを」
「俺と俺の背負いし業で、お前の望みを叶えてやろう」
それを運命と呼ぶのなら。
「お前は」
俺は。
「その資格を有している」
世界に拒絶されたこの身ならば、いっそ。
「俺の元へ来い」
共に、死人の名を連ねる十字の枷を。
銀色の未来を捧げて、過ぎることの無い過去に身をゆだねよう。この身には今すら必要ない。
―――それでも
差し伸ばされた手を。
俺は振り払ったから。
二度と、逃れる術は無い―――
初めからそのつもりも無かったのだから、別に構わないじゃないか。
針を失った時計に時はわからない。
過ぎていくのも、立ち止まっているのも、同じことだ。
世界は俺を拒絶している。
ならば。
―――俺も、世界を拒絶しよう。
(次へ)