自室に帰ると協会から小包が届いていて、装備一式、アサルトベストに詰め込んで、こっそり寮を抜け出した。

こんな閉鎖的な学園で、しかも規律が厳しいとあっては誰も深夜の散歩などしないのだろう。

廊下を抜けて、寮の扉を出ても、人影ひとつ見当たらないので、なんだか拍子抜けしたような気分だった。

「こんなに簡単でいいのか?」

生徒の自主性を尊重しているのだろうと、適当な理由をつけながら闇を駆ける。

学園だなんて人も大勢いるだろうから、要警戒だなと昼間は感じたが、案外夜のほうが行動しやすいのかもしれない。

まあ、当然だろう。勤勉な学生の皆さんは明日のために早く寝なければならないのだろうから。

玖隆の目的はそんなものではなかったから、思う様本業を謳歌させていただく。

出入りを禁じられているはずの墓地は、取り立てて囲いも無ければ見張りらしき人影も無い、本当に突然そこに現れるだけの場所だった。

オイオイと内心突っ込みを入れながら、ゴーグルのスイッチをONにする。

周囲を見回しつつめぼしい場所を探していると、背後から声をかけられた。

「玖隆クン!」

玖隆は勢いよく振り返る。

とっさにマシンガンを構えずにいられたのが不思議なくらいだった。

大いに動揺した視線の先、制服姿の八千穂がニコニコと月明かりに照らされて立っていた。

「や、ちほ、さん?」

「あ、やっぱり玖隆クンだった!よかったあ、そんな変な格好してるから、もしかしたら人違いかもって心配しちゃったよ」

「あ、そう」

のん気な言葉と裏腹に、心臓が口から飛び出しそうなほどバクバク鳴っていた。

これは、非常にまずい。

協会の規則では探索行動は隠密を基本とし、素性を明かさないこととある。

けれども今の状況は、はっきり言って全然忍んでいない。それどころか、こんな姿を他人に、しかも今日一日何かと世話を焼いてくれた恩義ある知人に見られてしまった。

どう誤魔化せば、と考える間もなく、八千穂はあらためてつま先から頭のてっぺんまで玖隆の様子を眺め回してへえと小さく声を洩らした。

「ねえ、こんな夜に墓地に来て、何してんの?」

「あいや、それは」

「まさか、一人で肝試しとかじゃないよね、あ、もしかして幽霊が見てみたいとか?」

「そ、そーなんだ実は!俺って幽霊マニアでさあ」

苦しい言い訳だ。

「やっぱりねえ」

八千穂は頷く。だが。

「って、そんなわけ無いでしょ!」

(無理か)

薄笑いが口の端から漏れた。

「まあ、幽霊は置いておくとしても、なんでそんな格好してるわけ?」

「えっ」

「そういう人なんかで見たことがあるよ?ええと、確か、と、トレ、トラ、トロ?んー」

トラハンター。

玖隆はこっそり囁いてみる。

「そう、それ!トラハン、って、それじゃただの虎狩りじゃない!」

―――これもダメか。

「しかも日本語プラス英語で訳わかんないし、誤魔化すにしてもせめてタイガーハンターとかさあ」

八千穂の突っ込みはキレがいい。

すでに今日の探索に向けて高まっていた気力はすっかり薄れて、半ば投げやり気味に様子を伺っていた。

(まあ、最悪バディになってもらうしかないな、これは)

手っ取り早く身内に引き込んでしまった方が、被害も少なくて済むかもしれない。

もっとも、こちらにとって不利な状況を作り出すようであれば、それ相応の対応をさせていただくことになるだろうが。

(親切ないい子だからなあ、オマケに女の子だし、あまり手荒な事はしたくないんだが)

それにしても、と玖隆は改めてうな垂れる。

最初の任務が大成功で、少し調子に乗っていたのかもしれない。

まだトレジャーハンター二度目の仕事だというのに、早速とんでもないミスを犯してしまった。

これが協会にバレたらどれだけのペナルティを喰らうのだろう。想像するのも恐ろしい。

まさにお先真っ暗といった状態だ。

どうしたものかと悩んでいると、ずっとこちらを窺っていた八千穂が急にニッコリと微笑みかけてきた。

「でもまあ、見つかったのがあたしで良かったじゃない」

「え?」

「玖隆クンの正体、誰にも言わないでいてあげる、だから安心して」

今更安心もへったくれもない気がしたけれど、この場は仕方無く頷いてみせる。

「うん、あたしたちクラスメイトだもん、気にしないで」

玖隆は少し不思議な思いがしていた。

こういった場面でも、同級生という属性は友好的に働くらしい。それとも八千穂が親切なだけだろうか?

「ねえねえ、玖隆クン」

「あ、何?」

「それで、どっか怪しい所は見つかった?あたしもあちこち探してみたんだけどさあ」

「八千穂さんも?」

「そうだよ」

どうやら―――見つかるべくして見つかった、というわけか。

そうなると肝が据わってくるようで、多少投げやりな感は否めなかったが、八千穂の協力を認めようという気になってくる。

どのみちすでに誤魔化しは利かない状況だし、ならばおとなしくご好意に甘えておいた方がいいだろう。

致し方なく割り切って、玖隆は改めて周囲を見回した。

「まだ、だけど、少し一緒に調べてみようか」

途端に八千穂が嬉しそうな表情を浮かべる。

「うん!」

玖隆は苦笑しつつ、八千穂を伴って墓地の探索を開始した。

 

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