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「4th-Discovery」
H・A・N・T画面に表示された文字郡を目で追って、やれやれと玖隆は溜息を洩らしていた。
昼休みに入ったばかりの教室内はざわついて落ち着きが無い。
八千穂は、友達に誘われて外へ出て行ってしまったようだった。
自分の昼食用にと買い置いておいた紙袋を掴んで、端末を反対側の手に掴んで立ち上がる。
学園内の構造はすでに十分把握していた。
今では、もう殆ど迷うこともなくどの教室へもたどり着ける。
道を覚える事は得意分野の一つだ。一度通った道なら、大体把握してしまう。
頭の中に組みあがっている三次元の通路を現実に選択して歩いて、たどり着いた扉を開くとそこにあるべき教員の姿は見当たらなかった。
彼女も、どこか所用で出ているのだろうか。
玖隆は首をめぐらせて、カーテンを閉じているベッドの一つに歩み寄っていった。
躊躇い無く白い木綿地を掴んで引き開けると、掛け布団に包まってうずくまっていた姿がううんと起き上がって振り向いた。
「おッ」
何が「おッ」だ。
溜息をつく玖隆に、皆守は嬉しそうな笑顔を浮かべた。
こういうときだけ調子よく、こいつはこんな顔をしてみせる。
「メール、読んでくれたんだな?」
「ああ」
「それじゃあ、例のブツを渡してもらおうか」
玖隆は少し乱暴に紙袋に手を突っ込んで、掴んだビニール袋を投げつけるように皆守に渡した。
上手くキャッチして、中身を確認した彼が満足げに頷いている。
「そうだよ、これこれッ、昼はやっぱカレーパンに限るよな」
「何が限るよな、だ、俺はお前の母さんでも召使でもないんだぞ?」
憤慨しながらベッドの脇に腰を下ろす。
昼に入った途端、保健室に行ったはずの皆守から届けられたのは、昼食を買ってきて欲しいという内容のメールだった。
色々魅力的な謳い文句で誘ったつもりだろうが、別段玖隆の気を惹くようなものも無く、ここへ来てやったのも仕方ないからといった方が正しい。
なんだかんだで世話の焼ける奴だと思う。
けれど、それは皆守も多分思っていることだろうから、結果おあいこだろう。
この学園に来て、探索を始めてからというもの、皆守はいつも遺跡探索に付き合ってくれている。
普段十時間以上寝ないと調子が出ないといっている彼が、あんな深夜に決して安全では無い場所で行動を共にしてくれている理由が未だによく分からなかった。
同情、では無いと思う。けれど友愛かと聞かれれば、それも微妙に違うと思う。
ただ、彼は何かにつけて玖隆の世話を焼いてくれるし、口止めしたことも、していないことも、都合の悪いことに関しては一切黙秘を続けてくれている。
時折呟く意見は的確だし、バディとしては頼りないけれど、民間人としては十分役立っている方だ。
だから最近では何かと当てにするような関係が続いていた。
皆守も嫌だと言わないから、気付けばいつも隣にこいつがいる。
―――少し、スクール時代を思い出して、玖隆は苦笑を洩らした。
ただあの人はもっとずっと頼もしい存在であったけれど。
皆守はすでに黙々とカレーパンを食べ始めていた。
保健室のベッドの上にパンの欠片がボロボロ落ちる。
いいのかよと玖隆は少しだけ顔をしかめた。
次にこのベッドを利用する生徒が嫌な思いをするだろう。
「オイ、落ちてるよ、揚げパンの欠片は染みになるだろうが」
「細かい事を気にするな、それより、この礼はちゃんとするからな」
「礼って何だよ」
「メール読んだろ?マニア延髄のレア物だ、寮に帰ったらお前にくれてやる、俺が長年使い込んだ愛用品だ」
「偉そうに、お前なんてまだそんなに長生きしてるわけじゃないだろうが、使い込んだって、せいぜい一年か二年程度だ」
「三年だ」
「大して違わないよ、バカ」
溜息をついて、袋からパンを取り出した。こちらは焼きそばパンだ。
「オイ、今人が飯食ってるのに文句垂れた奴は誰だ」
「細かいこと気にするなって言ったのも誰だ、いいんだよ、皆守の所為にしてやるから」
「何だと、晃、てめえ」
玖隆ははたと皆守の顔を見た。
僅かに困ったような表情が視線を逸らして、何だよと伺うように晃を見上げてくる。
「―――別に?」
口の端が少し吊りあがっていた。
嬉しくて、ついニコニコと笑みが浮かんでしまう。
「何でもないよ、甲太郎」
甲太郎は僅かに目を見開くと、慌ててパンにかぶりついていた。
乱暴に食う様子は照れ隠しに違いないと思う、それとも、気のせいだろうか。
「おい、晃」
「うん?」
完食した後で、空のビニール袋を玖隆に押し付けて、ベッドに再びもぐりこんだ皆守が呟いた。
「悪いな」
ゴミを紙袋にしまいながら、玖隆はいいよと気安く答えた。
「じゃあな」
「ああ」
カーテンから出て、周囲を見回すと、保険教諭はまだ戻っていないようだった。
昼食の件は全部皆守の所為にしてやるつもりだったから、すぐ保健室を後にする。
戸を閉めて歩き出すと、思い出し笑いが口の端を緩ませた。
「こういうのも、まあ、悪くないか」
友達というものなのだろうか。
僅かに浮かれてしまうようで、そんな自分は安っぽいなと玖隆は声に出して笑っていた。
皆守がくれると言っていたマニア垂涎のレア物とやらが、急に楽しみになっていた。
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