Love Life 2

 

 差し込む日差しで目覚めると、もう朝のようだった。

晃はひとしきりぼんやりして、自分が抱きしめられていることにようやく気が付いた。

顔を上げる。

甲太郎が寝ている。

(そうか、結局泊まったんだっけ)

二度目はさすがに驚かなかった。服も、ちゃんと上下着ている。気だるさも抜けていた。

「ああ―――」

そっと胸を揉んでみて、ため息が漏れる。

この感触、大きさ、昨夜の一件は夢なんかじゃない、全部現実のことだ。

「悪夢だ」

俯くとくぐもった声がううんと唸った。

甲太郎だけやけに平和そうだった。

 

「オイ、晃」

「なんだよ」

鏡の前で奮闘している友人を見ながら、甲太郎はベッドサイドに両足を下ろしてその上に肘をついている。

時刻は七時半、そろそろ支度を終えて、朝食でもとらないとHRに間に合わない頃だ。

甲太郎にとってはどうでもいいことだったけれど、晃はそうでないらしい。

膨らんだ胸をさらしでキリキリ締め上げて、体格のごまかしに苦心している。

勿論、普段どおり登校するために行っていることだ。

「お前さ」

アロマパイプに火をつけて、肺の中いっぱいに芳しいラベンダーの香りを吸い込む。

「そこまでして、行かなくてもいいだろ」

「俺はお前と違って真面目なんだ、理由もなく不登校なんて出来るか」

「理由ならあんだろ、でかいのが」

晃がギラリと睨みつけてくる。

「―――そんなものは、ありません」

まったく、やれやれと頭をかきながら、甲太郎はアロマを吹かしていた。

こいつの頑固さにもほとほと頭が下がる。

昨晩はあの後結局二度目のエッチはさせてもらえなかったし、それどころか自室に戻るといって聞かない晃を何もしないと必死になだめ賺してようやく一泊させたのだった。

それは、もちろん無茶をした彼の体を気遣ってのことなのだけれど、単純に手離したく無かった気持ちの方が強い。

女になった晃はともかく触り心地がいいし、しかもやたらいい匂いがするから、男としてはどうしてもその辺の魅力を見逃すわけには行かなかった。

晃には絶対言えないことだけれど。

もっとも、こんな状況下でなくても、こいつに対してなら同じように考えただろうなと甲太郎は思う。

そもそも男の姿に惚れ込んでいたのだから、性別なんて単なる言い訳に過ぎないだろう。

本音を言えばこのままでも、いや、むしろこのままでいて欲しいと思う。

けど、晃はそれを望んでいないし、まかり間違って本人に言えば多分本気で蜂の巣にされかねない。

結局甲太郎は黙り込んで、アロマを吹かしながら支度が終わるのを待っていた。

制服諸々をわざわざ彼の部屋から持ってきてまでしてやって。

(面倒なことこの上ないぜ)

大あくびを洩らす。

それでも辛抱強く我慢しているのは、全て、一人でも登校する気満タンの晃を守ってやるためだ。

元の姿でも怪しい態度を取る野郎は何人もいたし、状況が状況だけにこの際一層油断ならない。

晃はさらしに大分苦しめられているようだった。

胸が大きいのも原因の一端を担っていると思う。

昨夜の揉み応えのある感触を思い出して口元を緩ませていると、いつのまにか怖い顔で睨まれていた。

「変態」

「オイッ」

ぷい、と鏡に向き直り、再びさらしに集中する。

甲太郎は溜息を吐いていた。

 

制服姿を入念にチェックして、支度がすっかり整う頃にはすでに八時を回っていた。

HRは確実に遅刻だ。登校中の生徒の姿も、多分もうないだろう。

「よし、行くぞ」

鞄を持って振り返ると、晃は甲太郎と殆ど身長が変わらない。

器用な手先を活かして、即興で作ったシークレットシューズを履いているせいだ。

何もそこまでしなくてもと、呆れを通り越して少し感心していた。

「お前って努力家だな」

「当然だろ、ほら、行くぞっ」

半分嫌味でいったつもりだったのに、軽く流されて甲太郎は閉口する。

寮を出て、並んで歩く道のりは朝の清浄な空気に満たされている。

校舎へ続く街路樹の、葉の無い枝が光を受けてキラキラ輝くようだった。

「なあ晃」

「ん?」

「お前、本当に大丈夫か?」

「何が」

「幾ら見た目をごまかしたって、トイレとか着替えとかどうするんだよ」

「―――何とかするよ」

「なんとかっつったって、限界があるだろうが」

「だってどうしようもないだろう?こんな非常時なんだし」

振り返った晃が不意にはっと目をみはる。

「も、もしかして、やっぱりどこか変か?」

「えっ」

変、というわけでないのだが、やっぱりちょっと―――いつもとは雰囲気が違う。

外観的には常時とさほど変わりないのだけれど、よく見れば全体的に丸みを帯びているように思うし、顔つきも幾分女顔なのが強調されている気がする。

何より声が少し高い。そして、やっぱりいい匂いがする。雄の本能を刺激するいい匂いが。

うーんと唸る甲太郎に、晃は急に不安な表情を浮かべた。

ひどく困惑しているようなので、見かねて肩をぽんと叩く。

「オイ、晃、なら屋上でも行くか?」

「な、なんで」

「作戦会議だ、とりあえず午前は様子を見よう、午後なら時間も短いし、放課後になったらすぐ帰ればいいだろう」

話しつつ、甲太郎は面倒くさそうにアロマを吹かす。

「いっそサボっちまえばいいんだよ、お前は別に高校生やりに来たわけじゃないんだし」

「い、いいんだよっ」

「ったく、訳がわからねえよ、そんなに普段どおりにしておきたいのか」

どうやら図星だったようで、晃はウッと呟いたまま俯いてしまった。

肩にさりげなく腕を回す。

「ホラ、行くなら行くぞ、このままぼんやりしていて、雛川辺りにでも見つかったら面倒だ」

連れ立って歩き出すと、一時間目開始を告げるチャイムの音が響いていた。

案の定誰もいない通路を、二人は屋上に向けて登っていった。

 

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