「Love Life 4」
奇声を上げて光へと変わっていく化人の姿を見送って、振り返った晃が食神の魂を振りかざしながらニッと笑う。
「いよっし、ミッションコンプリートだ、とりあえず地上戻るぞ!」
「納得したか?」
「おうよ!」
返ってくる言葉は非常に男らしい。
実際男子の制服を着ているし、装備だって物々しくて、格好自体は殺伐としたものだ。
けれど、アサルトベストの胸元は随分苦しそうに膨らんでいる。
動きやすいようにベルトで締めたウエストはくびれていて、全体的に丸っこい。
何より体のラインが華奢だ。背丈だって低いし、ゴーグルの下の顔半分は可愛らしい造詣をしている。
晃は今、女になっている。
その事が彼の本職にどのような影響を及ぼすのか―――もしかしたら、身体的にも弱体化しているのではないかと、密かに心配していたのだけれど、ここに来てそれは杞憂だったとはっきり思い知らされていた。
性別が変わっても、トレジャーハンターとしての本分を果たすのに何も支障はなかったようだ
晃はいつものようにロープを伝い、石畳を蹴り、化人に出会っては刀剣や重火器でなぎ倒していく。
頭脳を使う作業はもちろんのこと、ジャンプやクライミングなど、あまりに普段どおり易々とこなしていくので少々拍子抜けしてしまった。
こちらは手助けしてやるつもり満タンだったというのに。
甲太郎自身は自覚していなかったけれど、好きな相手に格好いい見せ場を作り損ねた年頃の彼は少しばかりすねていた。
何となくもやもやしたまま、アロマをふかしていると急に顔を覗き込まれる。
「どうした甲太郎、何か暗いぞ」
「そりゃ、こんな時間に駆り出されたら暗くもなるさ、俺は寝てる時間だ」
途端デコピンをかまされて、なにすんだと身を乗り出すと晃がカラカラと笑う。
「自業自得と知れ、愚か者め、ほら、さっさと寮に戻るぞ!」
「ったく、その勢いはどっから来るんだ、この体力バカめ」
くるりと踵を返して歩き出す、細い後姿を甲太郎は追いかけた。
形のいいヒップと体のラインに思わず見とれてニヤリと笑う。
「甲太郎」
「んあ?」
「今何時だ?」
「あ、おう、ええとな」
時刻を答えると、それじゃまだ時間はたっぷりあるなと声が返ってきた。
どうやら視線に気付いたわけではなかったらしい。
「じゃあ、今夜は徹夜だからな、頑張るぞ!」
「俺、寝てていいか?」
「ざけんな、手伝え、でないと絶交だ」
絶交ねえ、とぼやきながら甲太郎は大あくびを洩らす。
「いいのか、俺と絶交だぞ、もう一緒にカレー食ってやらないんだからな?」
「ハイハイ、じゃあセックスもお預けか?」
「当たり前だ!」
なら、絶交じゃなければお預けでないということか。
狼男の口元にニヤリと笑みが浮かぶ。
「わかったよ、そういうことなら仕方ない、手伝ってやるぜ」
晃は何か引っかかったようにちらりとこちらを窺ったが、すぐに気を取り直してよろしいと頷いていた。
―――まったく、危機感知に乏しい、お気楽な奴め。
「ならとっとと戻ろうぜ、早く始めないと夜が明けちまうからな」
「そうだな、よし、急ぐぞ」
「ああ」
縦列で進む遺跡の壁に、二つの足音が反響して混ざり合っていた。
墓場から戻るときのほうが、遺跡の中で暴れていた時より慎重だった気がする。
晃と甲太郎はまるで盗人のようにコソコソと忍び足で晃の自室まで帰った。
扉を閉めて、鍵をかけて、ようやく一息ついたように互いにフウと息を洩らす。
「よしっ」
晃が急に顔を上げる。
「じゃあ、早速始めよう、タイトルは玖隆君を男に戻せ、調合大大会だ」
「なんだよそのタイトルって、しかもセンス悪すぎだぜ、俺はどこに突っ込んだらいいんだ?」
「どこにも突っ込まなくてよろしい、黙って手伝え」
いそいそと作業に取り掛かろうとする後姿を眺めて、甲太郎が待てと短く呼び止めていた。
「何だよ」
「―――あのな、俺からお前に、ひとつ提案がある」
「提案?」
「そうだ」
甲太郎はニヤリと笑いながら、人差し指を晃の鼻先に突きつけたのだった。
(続きへ)