すでに馴染みきった感触が肌を滑る。

まだどこかぎこちない動きで和哉の胸元をまさぐっている。

「んぁッ、はッ」

零れ落ちた声を飲み干すように重ねられる唇。

顔を上げた篤郎が囁くように名前を呼んだ。

「和哉」

―――秘密の情事の最中、好んで使う呼び方。

思わずフフと声に出して笑うと、再び唇を重ねてから篤朗が「何?」と問いかけてくる。

「俺、最中名前で呼ばれるの、結構好きだなと思って」

「そう?」

「ん」

「なら、もっと呼んであげる」

和哉、和哉と繰り返される声を聞きながら、和哉は篤郎越しの天井を見上げる。

 

あの日は満開の桜が咲き誇っていた。

 

はた、と気がついたら、一人きり、見たこともない場所に立っていた。

辺りには満開の桜。

薄紅色が舞い散り、生ぬるい大気と、透き通るように青い空。

(誰も、いない)

遠くから喧騒は聞えてくるけれど、現在位置の見当がまるでつかない。

春霞に煙る鈍色の校舎。

空を渡る小さな鳥、さやさやと和哉の艶やかな黒髪を揺らす柔らかな風。

(まあ、それほど敷地面積の広い学校じゃなかったはずだし)

適当に歩けば人のいる場所にたどり着けるだろう、しかし。

(当面の問題は、入学式に間に合うかどうかって事だよな)

流石にちょっと困ったぞと、辺りを見回していたら、声がした。

「―――なあ!」

振り返ると、舞い散る桜の向こうに近付いてくる人影が見えた。

(誰?)

桜の花吹雪のベールを掻き分けるように、若干不安交じりの表情で近付いてくる。

サイズ違いの制服姿ですぐ自分と同じ新入生とわかった。

「お前さ、もしかして、迷った?」

「え?」

「こんな場所に一人だし、新入生だろ?」

俺も、と言って、ニコリと笑いかけてくる、精一杯の笑顔に好意を感じる。

「俺、道分かるから行こうぜ、のんびり道草してたら入学式遅刻しちまう」

「あ、ああ」

「ほらッ」

スッと伸ばされた手が無造作に和哉の腕を掴んで―――引っ張ってから、ためらい、ほんの僅かこちらを窺うけれど、それを悟られまいとしている。

(こいつ)

思わず和んだ和哉に、少年は数回目を瞬かせてから、ホワッと仄かに頬を染めると慌てて更に引っ張り急がせた。

「マジ急げって!時間ないぞッ」

「わかってるよッ、それよりお前!」

「何?」

「名前!」

先を行く少年が振り返って、今度こそ何のてらいもない満面の笑みで答えてくれた。

「木原篤郎!アツロウって呼んでくれ、ヨロシク!」

 

(アツロウと知り合って)

偶然同じクラスで、知り合いが少なかった所為も手伝ってか篤朗は何かと和哉を構ってくれて。

(一緒に帰ったり、休みの日に出かけたり、お互いの家に遊びに行ったりして)

――― 一年の夏の終わり頃、特別な関係になった。

(でも、ホント、何でこんな事するようになったんだかなぁ)

和哉は別に男が好きというわけでもないし、篤朗にしてもそっちの趣味はなさそうだ。

なのに、篤朗は和哉を欲しい欲しいと強請ってくる。

応じた理由はイマイチ曖昧で、でもどうせアレだろうと大まかな見当はついていた。

(まあ、考えるまでもないよな)

篤朗の手が下着の内側に潜り込み、和哉の敏感な部分に執拗に愛撫を繰り返す。

背中に腕を回して甘く切ない声で喘ぎながら、困惑するほど気持ちよくて参ってしまう。

(俺、どうせ)

篤朗のことが好きなんだ。

そして篤朗も、俺のことが、好き。

(前に恋愛ゴッコの真似事、なんて言ったらメチャクチャ怒らせたし)

軽くキレられた。

俺はゴッコ遊びのつもりなんてないと、それこそ噛み付かんばかりに激昂された。

(まあ、アレがコイツの本音だとして、それを嬉しいとか思った俺も、相当ヤバイよなあ)

けれど、その時の篤朗の声や姿を思い出すと、想いが込み上げてきてどうにかなってしまいそうになる。

(篤郎)

手を伸ばし、和也も篤朗の敏感な部分に触れると、顔を上げた篤朗がそっと微笑んで深いキスをくれた。

 

―――二年目の夏が、もうすぐそこまで近づいている。

 

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※初めまして物語、アツローサイドはこちらから〜

 

ネコちゃんは倫理観がかなり低めっていう設定です。

それはちっさい頃からおにいやんに色々仕込まれてたからなんだけど、また別の機会にでも。