熱を帯びた肌の上を指先でそうっと撫で下ろす。

掌全体で和哉を感じる、唇で、舌で、爪で、肌で―――今ここにある全てと深く深く交わりたいと願う。

「和哉」

名前を呼んだら和哉は笑った。

どうしたのか、と問いかけると、行為の最中名前を呼ばれるのが好きみたいだ、と返された。

(可愛い)

男相手にこんな事考えるなんて、絶対どうかしてると思うけれど。

(けど、可愛いもんは可愛いし、和哉は俺の一番だし)

リクエストに答えて呼ぶたび、甘い鳴声が篤朗の鼓膜をくすぐる。

いきり立って少し痛いズボンの前を寛げて、同じ様に寛げた和哉の敏感な部分に触れた。

 

あの、春の日。

 

―――中学の卒業式、若干苛められていたような状況から連れ出してくれた友人が言っていた。

「高校行っても、変に人に媚びたりするなよ?」

「ちゃんと友達作れよ?」

(んなこと)

言われなくてもわかっているよと、通学路の途中石を蹴り飛ばしてみたものの、校門の前で早速怖気づきそうになった。

ここは、中学の知り合いの殆どいない学校だ。

そういった場所を選んで受験したから当然だし、そのことについて何ら後悔もないのだけれど。

(さっすがに、母親くらいはついて来てるよなぁ、やっぱ)

春色のスーツに身を包んでめかしこんだ中年女性と、サイズの合わない制服に袖を通した少年少女。

ごく一般的な入学式の風景。

父親までついてきている家庭も見つけられる、だが、一人で登校してきた新入生は、とりあえず今のところ自分くらいしか見当たらない。

(参った)

さっそくあぶれた。

気を取り直して校門を潜ってみても、足が勝手に人を避けて、逃げるように遠くへ、遠くへと行こうとする。

(この状況で一人入学式とか、マジありえないんですけど、あーもうちっきしょうオヤジとお袋!俺は一生恨むかんな!)

篤朗の両親は入学式に合わせて帰国する予定だったけれど、直前になって仕事でダメになったとキャンセルされて今回ばかりは相当へこんだ、若干の駄々もこねてみたけど無駄だった。

(はあ、しゃーない)

入学式が始まる直前まで、どこか人気のない場所で時間つぶしするか。

―――この調子では、また友達のいない学生生活を送るハメになりそうだ。

(うう、ケイスケぇ)

視界を横切る桜の花びらに、空を見上げながら今頃は別の高校で入学式に参加しているだろう友人の姿を思い描く。

ふと、気配がして視線を戻した。

咲き誇る満開の桜、舞い散る薄紅、鈍色の校舎、鳥の声。

(―――えッ)

春霞の先に人が立っていた。

スラリとした体躯を包むサイズの合っていない制服。

艶やかな黒髪を風になびかせ、ぼんやりと風景を眺めながら、どこか現実味の伴わない姿で佇んでいる。

その少年の横顔が見えた途端、篤朗の胸は突然高鳴っていた。

(う、わぁ)

白い肌、長い睫、どこか憂いを秘めた表情から伝わる優しげな雰囲気。

はらはら、はらはらと舞い落ちる桜時雨の中、何をするでもなくぼんやりしている。

(お、男?男、だよな?)

瞬きを繰り返して、ついでに目を擦ってもみたけれど、着ているのは間違いなく男子用学生服だ。

(なんだってこんなところに)

他に人はいない。

少年は、たった一人でこんな場所をふらついている。

(ひょっとして、迷子?)

風が吹いた。

―――不意に少年が何かに気付いたそぶりで辺りをキョロキョロと見回し始めた。

(ビンゴ)

思わず少し噴出してしまう、あの様子では、もしや、自分が迷ったと今更気付いたのだろうか。

(俺と一緒で一人なんかな、でもやっぱ、普通に親とかついてきてるよな、多分)

若干複雑な思いが胸を過ぎったが、篤朗は首を振っていた。

(いや、そんなことより、どうしよう、アイツ―――)

手助けしてやることに吝かではないけれど、急に話しかけて、引かれたりしないだろうか?

あからさまに怪訝な目で見られたらどうしよう、最悪、無視されたり、迷惑がられたら?

(け、けど)

迷う篤朗の足は勝手に進み出していた。

(と、とにかく、声、かけないと!)

―――親しくなれる可能性だって、同じくらいあるはずだから。

自分と同じ一人で心細いに違いない、きっとそうだと心で唱えながら近づいて行く。

「なあ!」

声は、思った以上に響いて通った。

振り返った少年の姿をハッキリと見て、今度こそ篤朗は早鐘の様な鼓動と共に意を決していた。

 

(その後、名前教えあって、クラスも一緒で)

蓮見和哉、なんて、コイツに似合いのいい名前だと即座に思った、多分既にあの時イカレてたんだろう。

(今だって男相手に興奮して、こんな起たせちまって)

これは重症だ。

俺は病気だ、そう簡単には治らない厄介な病。

和哉と出会って発病したものが、夏の終わりに峠を迎え、病巣は心の奥底に根付いてしまった。

特別以上の存在、和哉が行くところならどこだって一緒に行きたいし、いつだって傍にいたい、一生同じものを見て、同じ事を感じて、同じ時間を生きていきたい。

(現実にそんな事、叶うわけないって分かってるけどさ)

でも、俺には和哉だけ。

和哉にも、俺だけであって欲しい。

滑らかな感触がズボンの内側に入り込んできて、顔を上げると目の前で肌を上気させながら気持ち良さそうに瞳を潤ませている和哉は、今、確かに篤朗以外何も見えていない。

「和哉」

喜びと共に唇を重ね合わせると、甘い吐息が舌に絡んだ。

(和哉が俺を欲しがってくれる事が、こんなにも嬉しい)

馴染みあってこのまま溶けてしまいたい。

 

―――二年目の夏は、もうすぐそこまで訪れていた。

 

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※初めまして物語、ネコミミサイドはこちらから〜

 

ちなみにこの後和哉にはママ&ユズちゃんがついてきていたと知って篤朗地味にショック、女子だし!

幼馴染コンビにソロソロと近づいていくアツロウの様子とか、妄想するだけでたまらん。

お友達すぐにできてよかったね★