「よく来たね」

声は思いのほか落ち着いていた。

感動の再会などというものを期待していたわけでもなく、直哉も「ああ」と短く返す。

「呼んでくれたら、迎えに行ったのに」

「魔王様を召喚か?クク、それは恐れ多い」

「いいんじゃない?歳も近いみたいだ」

「今年で14だ」

「ふうん、ねえ、今度の転生は早いほう?」

「まあ、大体これくらいだな、まちまちだが、世紀を跨ぐことはない」

王座に続く階の手前で立ち止まる。

上段からジッと見下ろしてくる双眸に、改めて「和哉」と呼びかけた。

「戻ったぞ」

「おかえり」

立ち上がった背後で漆黒のマントがフワリと揺れた。

そのまま暫く見詰め合った、和哉は、とん、とんと、ゆっくり階を下り始めた。

直哉より一段高い場所で立ち止まる。

「俺より背、低いね」

クスッと微笑んだ、その笑い方があまりに変わっていなくて、一瞬ドキリと胸が鳴った。

前触れなく頬を一粒の雫が伝い、和哉はそのまま倒れこむように直哉に抱きついてきた。

しかし少年の身体では支えきれずに諸共床に倒れる。

咄嗟に叱りつけようとして、耳元で繰り返される「良かった」の声を聞き、直哉はフウと息を吐き出した。

「愚か者め、よもや俺が戻らんとでも思ったか」

「だ、だって」

「兄の言葉を疑うとは何事だ、お前を謀り、俺に何の得がある」

「直哉は昔から嘘ばっかりだったじゃないか」

「フン、こんな事で嘘など吐かん」

それに嘘を吐いた覚えはないぞ、と言った直哉から起き上がった和哉がそうだね、と答えた。

涙がポロポロと降り注いでくる。

「ロマン、だっけ?」

「そうだ」

「フフ、相変わらず性格悪いなあ」

再び抱きついてくる弟に、兄は持て余すような微笑を浮かべながら、そっと背中に腕を回していた。

温もりも、重さも、鼓動の音さえ、何もかも懐かしく、この上なく愛しい。

和哉と再び逢えた、それだけで、冷え切っていたはずの胸がこんなにも熱い。

―――孤独の旅路は想いもよらぬ形で終わりを告げたのだと、直哉は漸く、ハッキリと悟った。

「和哉」

「何?」

「泣くな」

「無理だよ」

「今のお前の姿を見たら、天使どもだけでなく、悪魔にまで哂われるぞ」

「別に構わない」

「俺が構う、三下に俺の弟を馬鹿にされては我慢ならん」

アハハ。

顔を上げた和哉が、やっぱり直哉だね、と言って笑った。

起き上がってそのまま床にペタリと座り込んだ、幼い仕草にやれやれとぼやく。

「魔王の威厳はどうした、鼻まで垂らして」

「直哉が遅いのがいけないんだ」

「致し方なかろう、自然の摂理だけは、流石の俺もどうにもできん」

「偉そうな14歳だ」

「言っておくがな、俺の最初の生は、モーゼが海を割るより遡るぞ」

直哉も起き上がり、胡坐をかいて、改めて和哉の姿を見つめた。

今生の別れもいずれ訪れるのだろう。

けれどその先も、更にその先でも、無限の逢瀬が俺達には約束されている。

(俺は漸く、手に入れたのだな)

そっと伸ばした指先で瞳の雫を拭ってやると、その手を包むように和哉の手が重ねられた。

今、伝え合うぬくもりこそが真実。

直哉、と呼びかけてくる和哉に、万感の想いを込めて直哉は微笑み返していた。

「今日からはまた兄と呼んでくれよ?和哉」

 

 

―――蛇足があります。

でもここで終わりでもいいので一応そういうことにしとく。

more!more!』な人は続きからどうぞ。