本日の屋外気温は38度を越えるらしい。

アイスティーのストローを齧りつつ、日陰の向こうで輝く街並みにうんざりしながら瞳を眇める。

 

青山のアパートで月を眺めてから数日後、夏休みをのんびり満喫していた和哉の元にメールが届いた。

差出人は直哉で、明日の昼過ぎ三時ごろ、渋谷にある901前で待ち合わせたいらしい。

用件はそれだけだった。

一体何だろうとアイスバーを齧りつつ了解のメールを返信した直後、木原篤郎から着信が入り、和哉はふと思い立って直哉の用事を教えた。

 

篤郎とは高校の入学式で知り合って以来の仲だ。

気の良い彼と和哉はすぐ打ち解けて、後にコンピュータ関連の技術に優れる篤郎が師と仰ぐ人物が従兄の直哉と知り、二人の距離は益々縮まり、今では恋人と揶揄される程に親しく付き合っている。

―――実際、雰囲気に呑まれてうっかりペッティング紛いの行為に及んだ事もあった。

その時は、お互い本番の練習と嘯いてお茶を濁したけれど、幾ら仲が良くても同性相手に性行為を試みたりしないだろう。

それに情事はその場限りで終わらなかった。

今も時々、殆ど一人暮らしのような篤郎宅で秘密は増え続けている。

恋愛と呼ぶ程の熱は無く、かといってただの友人とは一線を画する関係。

適当な表現が思いつかなくて和哉は『親友』と呼称していた。

 

その親友の元にも同様のメールが届いていたらしい。

二人同時に呼び寄せるなんて何用だろうという話をした後で、待ち合わせる約束をした。

篤郎は柚子にも声をかけるつもりらしい。

谷川柚子、こちらは、和哉の小学校来の幼馴染だ。

小中高と同じ学舎に通い、半ば腐れ縁の様な付き合いが続いている。

和哉が篤郎とつるむようになってからは柚子も加えた三人で行動する事がやたら増えた。

何かと柚子を構う事の多い篤郎の事だ、多分言い出すだろうとは踏んでいた。

明日、渋谷901前に1530集合。

そうして和哉は電話を切った。

 

―――そして間もなく約束の3時半。

(暑いな)

蒸れた空気の中、額の汗を拭いつつ行き交う人々。

ヘッドホンから聞えてくる音楽も暑気を拭ってはくれない。

まるで角のように頭にあたる部分が二箇所尖ったデザインのヘッドホンは、十五の誕生日に直哉から贈られたプレゼントだ。

手作りとのことらしいが、こんなものを作ってしまうのだからやはり敵わないなあと思う。

(こないだ)

青山のアパートに一泊した日。

(直哉、ちょっと変だったな)

いつもより情熱的に求められた。

もっとも行為は毎回時間をかけてじっくり念入りに行われるから、本当はあれが一般的なのかもしれない。

篤郎は、驚くほど呆気なく達してしまうし。

(まあ、ちゃんとしたことないし、比較にしても仕方ないけど)

ストローから流れ込む冷たい感触が心地良い。

直哉は一晩かけて体の隅から隅まで、それこそ、髪の一筋に至ろうかというほど念入りに愛撫を施す合間、繰り返し和哉の奥を穿ち、溢れてもなお注ぎ込まれて、最後には意識まで奪われた。

お陰で翌日は疲労困憊、腹まで下して、日が西に傾きかける頃までまともに身動きできなかったほどだ。

直哉は涼しい顔で貧弱だ何だと笑っていたけれど、それでも、いつも以上に和哉を甘やかしてくれた。

その時に覚えた若干の違和感―――たまにはこんなこともあるかと、あまり気に留めなかったけれど。

ポケットから携帯電話を取り出して、昨日のメールを読み返してみた。

別におかしな所はない。

兄はいつだって横暴だし、合理主義者だから、無用の呼び出しをかけたりしないはずだが。

(なんか気になるんだよな)

ストローがズルズルと音を立てたので、和哉はカップを軽く振って近くのゴミ箱に放り込んだ。

時刻は3時半ジャスト。

シャツの内側で肌を伝い落ちて行く汗が気持ち悪い。

ふと髪を揺らした涼風に瞳を細くしたとき、声がした。

「お〜い、レン、こっち、こっち!」

振り返るとノートパソコンを脇に抱えて駆け寄ってくる姿を見つけた。

「アツロウ」

微笑むと、傍に来た篤郎は「お疲れ」と答えて、夏空に負けないくらい晴れやかに笑った。

 

夏のうだるような暑さが山の手沿線の内側を容赦なく照らしていた―――