◇Starry
Shooter『1st DAY』
【12:30:都内某所】
「そうか、分かった、引き続き監視と警戒を怠るな、何が起こってもおかしくない状態だ」
―――携帯電話越しに指示を下す口元に、愉悦の笑みが滲む。
この地上で、恐らくは、自分以外知り得ない未来へ向けて布石を打つ今の、何と楽しいことか。
連綿と受け継がれてきた一族の宿命と因縁。
その全てに終止符を打つ時が遂に訪れた。
歯車は既に回り始めている、もう何人たりとも止める事など出来はしない。
(そう、奴にすら)
破壊と、その後に訪れる再生へ向けた壮大な叙事詩の幕が、間もなく切って落とされる。
峰津院大和は、先日、秘密裏に行われた現日本国首相との会談を思い出していた。
国政の中枢を担う、一部高官のみがその存在を知る組織。
気象庁指定地磁気調査部、通称JP‘S
歴代の峰津院当主が率いてきた組織を、今は大和が局長として統括している。
日本国民が精神論から離れて久しい現代においては、半ばお荷物扱いを受けている組織だ。
だからこそ、まだ年若い大和の局長着任に異を唱える者が無かったのかもしれない。
無論、峰津院家の圧力もあるだろう、しかし、恐らく本音は体のいい厄介払い。
迂闊に触れては面倒な存在を地下に押し込め放置した。
首相は現在国家が抱える財政難を理由に、予算縮小と幾つかの施設及び設備の凍結を告げ、慇懃無礼に理解と了承を求めてきた。
―――国家は既に古の盟約を忘れ、霊的防衛を無用の長物と見なしている。
同時に大和に対しても、所詮子供と侮り、礼を尽そうともしない。
もう間もなく、神の理の元、終末の幕が開き、世界が滅びを迎えたとき、彼らはどのような反応を示すだろう。
責務も立場もかなぐり捨て、我先と逃れようとする浅ましい様が目に浮かぶようだ。
既にどこにも、逃げ場などありはしないというのに。
運命に抗うならば戦うしかない、しかし、それこそ本望と大和は静かに瞼を閉じる。
(かつての腐りきった思想、古き概念の支配する社会は、本日間もなく崩壊するのだ)
そうして新たな秩序を私が芽吹かせる。
怠惰と傲慢によって食い荒らされた、シンプルで美しい道理の復興。
代々の峰津院が流した血の対価をこの国は支払わなければならない。
息を吐き、再び見開いた視界の、窓の外に広がる安穏とした風景に目を向けて、もしかしたら自分は一族と国家に復讐したいのかもしれないと、ふと思った。
(何をバカな事を)
頭を振り、再び携帯電話の短縮ダイヤルを呼び出す。
手駒の中で最も信を置く者を、運命の分岐に差し向けておかなければ。
『あの日』から見つめ続けた存在。
長く言葉を交わすこともなかった姿を想い、早く来いと願った。
(時は満ちた、今こそ誓いを果たしてもらおう―――天人)
大和は薄い笑みを浮かべる。
ややして携帯電話から聞こえてきた声に下知し、通話終了した画面を眺めた。
既に根回しは済んでいる。
君ならば、与えられた力を使いこなし、その手で運命を抉じ開けるに違いない。
(もうすぐだ)
幼い日の声が大和に呼びかけていた。
心配いらないよ、と。
そうして程なく―――審判の時は訪れた。