光の元に連絡があったのは、クリスマスの翌日だった。

 

前日、1225日は彼の快気祝いもかねて、仲間達が全員、自宅に顔をそろえてくれた。

皆、思うところもあるだろうに、それを一切外には出さず、壬生も巻き込んで、楽しいひと時を贈り物としてくれた。

「ホラ、壬生、お前結構いける口なんじゃねえのか?」

「いえ、僕はそれほどでは」

「うるせえ、てめえ、俺達の酒が飲めねえってのか、オラ、飲め飲め、姫の前だからって格好つけてんじゃねーぞ!」

「京一君、未成年の飲酒は」

「美里さん、今日だけは見逃してやってもらえないか?」

「そうですわ、大体、お神酒、お屠蘇、神前酒、全部酒ですわ、何よりこれは私が持ち込んだ大吟醸「神威」なのですから、お神酒みたいなものですわよ」

「と、朋恵さん、それはちょっと強引じゃありませんか?」

「何ですの、比良坂様、私間違っておりませんわよ?」

「朋恵さん、君、酔っ払っているんじゃないのか?」

「如月様まで!」

「ウハハ、いいじゃねえか、如月、朋恵ちゃんだって飲みたい時もあるんだろうよ、可愛いじゃねえか、よしよし」

「村雨様はお話しがわかる方ですのね」

「なんだい朋恵ちゃん、ちょっとは俺の事が気になってきたか?」

「ご冗談を」

「―――つれないねえ」

光もたくさん笑った。

彼が、笑顔でいる事が、自分達には何よりもうれしい事であるのだと、誰も口にせず、けれど態度で最大限にそれを伝えて、宴会は大いに盛り上がった。

あまり遅くならないうちに、と、美里と比良坂は連れ立って先に帰り、残った村雨と蓬莱寺は朋恵に説教をされつつもそのまま倒れるまで飲み続けた。

光はずっと介抱役だった。

壬生は、まだ戸惑っていたけれど、彼らの意を酌んで最大限努力しているようだった。

時折光を気遣って介抱を手伝おうとしてくれたけれど、蓬莱寺と村雨に突っぱねられて、困り顔で、それでも笑っていてくれた。

こんな雰囲気は久し振り―――いや、初めてのことじゃないだろうか。

(嬉しい)

酔いつぶれた蓬莱寺に毛布をかけてやりながら、しみじみとそう思った。

「お兄様」

「うん?」

「よい、お顔をなさってらっしゃいますわ、私、お兄様の笑ってるお顔が一番好き」

そのままぱったり倒れた朋恵を受け止めて、村雨は微かに笑っていた。

「お姫さんも、何だかんだ言って年頃のお嬢さんなんだな」

「うん」

「普段、あんだけ肩肘張って頑張ってんだ、たまにゃこういうのもいいだろ、なあ、兄さん?」

「そうだな」

「この子はいい娘だ、大事にしてやんな」

そのままそっとソファの上に下ろして、光から受け取った毛布をかけてやると、彼もまた傍で寝息を立て始めていた。

壬生とひとしきり片づけをして、光は寝室で、壬生は蓬莱寺たちと一緒に居間で寝ることにした。

「その方が、いいと思う」

壬生の提案で、光は一人きり、いつものように布団を敷いて横になったのだった。

少し前までの騒ぎがまだ胸の奥でざわついていて、なかなか寝付けなかった。

楽しい事ばかり続けばいいのにと思う。

この先に―――確実に待ち構えている、自身の定めを思うたび。

(りいん)

聞こえた鈴の音に、あわてて布団を頭まで引き上げると、光は目を閉じて、眠りの淵に逃げ込んだ。

 

そして、目覚めたときには、すでに時刻は正午を回っていた。

フラフラと居間に行くと誰の姿もなく、また部屋も綺麗に片付けられていて、テーブルの上に少し出てくると壬生の走り書きだけが残されてあった。

「皆、帰ったのか」

不意に寂しくて、ソファにストンと腰を下ろして、ぼんやりベランダを眺める。

少し前までは六門封神の影響で食欲がなくなっていたけれど、今はまた別な理由で食欲が沸いてこない。

内側にみなぎる、黄金の気―――

手を握ったり開いたりして、掌を眺めて、それからまた外を眺めた。

この身の内に宿る龍が咆哮を上げている。

力が充実しすぎて、食べなくても全然構わないようだ。元より剣である光は食事を必要としない。

けれど、それはあくまで仮想的な理屈であって、普段は普通に食欲もある。

実際毎日壬生と交替で食事を朝昼夕と三食食べている。

「でも、今は」

いや、本当は―――

見開かれた瞳は金色に染まり、全身も淡く黄金の光を放っていた。

それを緩々と鎮めて、光は深く息を吐き出すと、両目を閉じた。

「紅葉」

どこへ行ったのだろう。

彼の事ばかり考えて、意識はまた深く沈んでいった。

 

次に目覚めたのは、すでに夕方も終わる頃。

光、光と呼ばれて目覚めた。

見上げれば、ソファに横たわり、毛布がかけられている。

目の前には壬生の顔。

「あれ?俺」

「寝ていたんだよ、あんまりよく眠っていたから、起こさなかったんだ」

「そっか」

瞼を擦りながら起き上がると、壬生は隣に腰を下ろした。

「光」

「うん?」

「―――今しがた、京都の本宅から君に電話があってね」

え、と振り返った。光は何度も瞬きを繰り返す。

「用件は?」

「すぐこちらへ来るようにとの事だ、近くのヘリポートにヘリコプターをよこしてくださるらしい、そこまでの交通手段も、あと30分ほどで家の前に到着する」

「えッ」

呆気に取られた光を見詰めて、立ち上がった壬生は顔を洗っておいでとだけ言うと、寝室へ歩いて行ってしまった。

わけのわからないまま顔を洗って戻ると、すでに服の支度がしてあって、言われるままに着込むと、壬生はコートにマフラー、片方の手に鞄を持って、玄関先で待っていた。

「光、コートの前はきちんと閉めないと駄目だ、それから、マフラーは巻いたかい?」

「う、うん」

「手袋は」

「ちゃんと付けた」

「靴下」

「穿いてるよ」

「うん、大丈夫みたいだね、ああそうだ、帽子は」

気遣う彼にいいよと苦笑いをして、そこで初めて壬生も気づいたようだった。

少し照れた顔をしてごめんと短く呟かれて、光は黙って彼のコートの袖口を握る。

「行こうか」

外へ出ると、夜気はかなり寒かった。

出入り口前に黒塗りの車が停車していて、光が姿を現した途端、中から出てきた運転手が後部座席を開いて恭しく頭を下げる。

二人が乗り込むと、車は音もなく走り出した。

向かった先はそれほど遠くない場所にあるホテルだった。

「こちらの屋上で、ヘリが待機しております」

そう言われて、送り出されて、壬生がホテルの従業員に確認を取って、光は連れられて屋上まで登る。

ヘリコプターを見たのも、乗るのも初めてで、多少状況に興奮しつつ、外の景色にばかり気を取られていた。

隣で、壬生は正面を向いたままじっと座っていたようだった。

 

それからほんの数時間で、ヘリコプターは京都の街に到着していた。

 

(続きへ)