校舎裏はこんな景色だったのか。
地面が湿っていて、日もあまりささないようだ。
北西を向いているようだから、土地の気が老成されているのだろう。
北と、西は、それぞれ玄武と白虎の司る方位だから。
「佐久間さん、こいつ、全然抵抗しないですね」
「もっと殴ってやれ」
「へへ、何か俺、ゾクゾクしちゃってますよ」
拳が再び頬を張った。
倒れこもうとしたところに、膝蹴りを入れられて、更に、髪を掴まれて無理矢理立たされる。
校舎裏に連れ込まれた光は、その場で待ち構えていた佐久間から一撃見舞われた後、今度は少年達から代わる代わる嬲られていた。
そろそろ暴行に飽きたらしい、少年の1人が、倒れた光に爪先を引っ掛けながら、佐久間に伺い立てた。
「佐久間さん、こいつ、ホント女みたいな顔してますね」
「そうだな」
「犯っちゃっていいッスか?俺なんか、こいつが、さっきから」
「ああ、綺麗な顔顰めて、喘いでるみたいだよな、殴られるたびによォ」
「俺ムラムラしちゃって、こいつ、ちょっと鳴かせてみたいんスけど」
佐久間はフンと鼻を鳴らして、傍に歩み寄ってくる。
「どれ」
光を蹴りつけて、仰向けにさせると、馬乗りになってきた。
「ああ、こりゃ、確かに、なんとも色っぽい姿だな」
ボタンが飛び、シャツが破けて、露出した肌に血が滲んでいる。
短い呼吸を繰り返す、光の姿は、どこか艶かしい。
少年たちがゴクリと喉を鳴らした。
「そうだな―――ブッかけた姿を写真に収めとくってのも、悪くないかもな」
「へへ、さっすが、佐久間さん!」
「話が判る」
「そんじゃま、ちょっと可愛がってあげましょうか」
佐久間がシャツに手をかけた。
一気に引き裂いて、上半身を露にした後、ズボンのベルトに手をかける。
「精々、女みたいに喘いで、よがりな」
無骨な指先がバックルを外そうとした。
その手が―――振り払われて、次の瞬間、佐久間の体が中を舞う。
「へ?」
唖然とした少年達の1人が、突然倒れた。
「な、何」
残りの2人は、ようやく状況を認識する。
すでに意識のない、先ほど倒れた一人。
佐久間は校舎の壁にしこたま体を打ち付けて呻いている。
彼らの目の前に、いつの間にか立っている、御剣光の姿。
「どういう、事だ?」
その時「御剣!」と声がした。
少年たちが顔を向ける。
「やべえ、蓬莱寺だ!」
校舎脇から現れて、血相を変えて駆け寄ってくる蓬莱寺の姿があった。
少年たちが身構えようとした、途端。
「えッ」
もう1人の少年が再び中を舞う。
彼の立っていた場所近くで、突き出した拳を光がゆっくりと納めていた。
振り返った双眸には、淡い金色の光が灯っている。
「ヒッ」
蓬莱寺が足を止めた。
ただ1人残された少年は、青くなって、ジリジリと後退りした。
けれど。
「―――御剣」
声を上げる間もなく、光の一撃によって、最後の少年も地面に倒れ伏していた。
光は、破かれたシャツを眺めながら、やれやれとため息を漏らす。
「これはもう、着れないな」
「み、御剣!」
「蓬莱寺」
駆け寄る蓬莱寺が胴着を来ているので、光は物珍しく姿を眺めていた。
武術の稽古着とは、やはり少し形が違う。
「お前、大丈夫、か?」
「怪我ならすぐ治る」
「あ、いや、そうじゃなくて、いや、それもあるんだけど、その」
困った様子で頬をポリポリと指で掻く。
周囲に横たわる面々。
佐久間以外、意識のない彼らを改めて見回して、凄ェなと漏らす。
「お前って、その、こんなにやれたのか」
「自分の身を守れる程度には、鍛えてある」
(そんなレベルじゃないだろ、これは)
何故か背筋に冷たいものを感じながら、蓬莱寺は改めて光を見詰めた。
背丈はあるが、武道家の体つきじゃない。
色も白いし、顔は綺麗だし、ホント女みたいなのに。
光は制服についた泥を叩き落しながら、これじゃ帰れないなとぼやいていた。
ハッと我に返った蓬莱寺は、自分の制服を貸してやると申し出る。
「けど、蓬莱寺が困るじゃないか」
「俺は部室に置きっぱなしがあるから、気にすんなって」
「そうか、有難う」
「いや」
調子が狂う。
これだけのことが起こったあとで、けれど光は意に介していない。
腹も立てていないようだった、一体どういう事だろうか。
(本当に、妙な奴だ)
「咄嗟に手加減できなかった」
「え?」
「犯されそうになったから」
「な、何?!」
ガツンと殴られたような衝撃が走った。
「流石に、それはちょっと」
光は迷惑そうにしているだけだ。
蓬莱寺の毒気は、すぐに抜かれてしまった。
「なんだよそれ―――」
「嫌だから」
やっぱり、色々とずれている。
すっかり気が削がれて、とりあえず何と言ってやろうかと考えていると、校舎の向こうから大勢の気配と声が近づいてきた。
「先生、こっちです、こっち!」
「アン子か」
―――美里が声をかけたのか、それとも、2人で手分けして助けを求めたのか。
「御剣、この状況じゃ色々面倒な事になりそうだから、とりあえずずらかるぞ」
「ずらかる?」
「逃げるんだよ、ったく、お前も大したタマだよな、その腕前、今度誰に習ったか教えやがれ」
「妹だよ」
「ふざけんな、急げッ」
駆け出す蓬莱寺に続いて走り出す。
2人が姿を消した後、佐久間達だけが残された現場に、ようやく教員たちと遠野が到着していた。