「ッつ?!

暗闇の中、見開いた瞳が宙を凝視する。

息が荒れていた、動悸も大分早い。

「ゆ、夢・・・?」

気付いて、額の汗を拭いながら光は重く深い息を吐き出した。

震える指で濡れた前髪を払いのけて、そのまま瞳を硬く閉じる。

何度も。

何度でも繰り返してみる、同じ夢。

彼の夢。

瞳を閉じたまま思いをめぐらせていた。

自宅のあるこの辺りは、特に妹の、朋恵の気配が強い。

光を守るための結界が、幾重にも厳重に張り巡らされているせいだった。

ガードの数も大分増やされたようだし、これはくだんの一件が彼女の耳にも入っている証拠だろう。

光に気づかれないように細心の注意を払って行動しているようだが、剣である彼にとっては無意味な行為だった。

そう、あらゆる事が無意味だった。

ガードも、結界も、何もかも。

守ろうとしているものの心がここには無い。

それではいけないとわかっていても、どうしても想ってしまう。求めてしまう。

彼の事を。

シーツと掛け布団の間でできるだけ小さくなって、光は小声でその名前を呼んだ。

「・・・紅葉・・・」

かすれるような、熱のこもったその声。その名前。

涙が頬を伝って落ちる。

辛くて苦しくて、今すぐにでも開放されてしまいたかった。

・・・それが、願ってはいけないことだと知りつつも。

「紅葉」

もう一度だけ呼んだ名前の、響きは闇に飲まれて消えていった。

 

 学校に続く道のりの、校門の手前で見慣れた後姿を見つけて蓬莱寺は笑う。

足音で気付かれるかもしれないと注意を払って近づいて、すぐ後ろに立った瞬間に彼の肩を腕で思い切り抱き寄せた。

「ひーめっ、おはよう!」

うわ、とつぶやいてよろける様子に、なんだか妙なものを感じる。

「・・・京一、おはよ」

困り顔で笑う光に、いつものような覇気がないことに気付いた。

また、あいつのことを考えていたのか。

ぴんと来る自分に僅かに嫌気が差す。出会ったばかりの頃から比べて、月日を追うごとに彼の姿がほの暗く沈んでいくようだ。自分は、その原因を知っている。

チリチリと焼けるような胸のうちから強引に目をそらして、蓬莱寺はさりげない笑みを努めた。

「なんだ、ぼやっとして、深夜番組のおねーちゃんにでも夢中になってたんだろ」

「京一じゃあるまいし」

「なんだよっ、俺だってたまにしか見てねえぞ」

「嘘だ、アイドルに詳しいじゃないか」

ぐっと言に詰まった蓬莱寺を見て、光が笑う。

笑ってくれると本当に嬉しかった。たとえ、それがどこか力のない笑みだとしても。

「姫、一緒に学校行こうぜ」

誘われて光はコクンと頷いた。

「じゃ、いこう、ぼやぼやしてっとHRに遅れちまう」

歩き出す足取りも彼の分だけ後れてくるような気がして、同じ歩幅を気をつけながら蓬莱寺は光と共に真神の門をくぐった。

 

(続きへ)