石段を登った先の鳥居をくぐり、境内に踏み込むとそこには誰もいなかった。
「姫?」
蓬莱寺が辺りをきょろきょろと見回していると、後からついてきた如月が突然険しい表情に変わる。
「やられた」
はっとして振り返った蓬莱寺は、如月に詰め寄った。
「やられたって、何が」
「結界だ、鳥居に結界を張って、光だけ引き込まれた」
「なっ」
唖然とする蓬莱寺のすぐ側で、美里が体を強く抱きながら震えた声を上げる。
「光?・・・光が、おかしな気配に捕まっている・・・」
「おかしな気配?」
「これは、何?なにか違う・・・」
「壬生か?!」
美里は青ざめながら首を横に振った。
「その、壬生さんという人がこの間光を傷つけた人なら、今の気配は違う何かよ」
「君は壬生の気配を知っているのか?」
「少しだけど、以前光の怪我を治したとき、彼の中に残っていたから」
顔をしかめる如月の隣で、木刀を握る蓬莱寺の手がわずかに震えた。
「あの時感じた気配とは違う・・・これは、人じゃない」
美里の言葉に二人は顔を見合わせた。
「人じゃない?」
「美里さん、それはどういう」
「わからない、わからないけど・・・」
美里は首を強く振って、すがるような目で蓬莱寺と如月を見上げた。
「光が危ないわ、怖い・・・何かが、光を取り込もうとしている」
「なっ」
ぎょっとしたように目を向いて、蓬莱寺は如月を振り返った。
「ど、どうすりゃいいんだよ、おい!」
「僕一人で出来るかどうかわからないが、打つ手はある」
「何だと」
如月は懐から包みを取り出した。結んであった紐を解いて開くと、中に端数本の苦無が収められてある。
「これから陣を引く、そこに力を送り込んで、結界を破裂させる」
「そ、そんなことできるのか?」
「理論的には可能のはずだ」
如月は素早い動作で苦無を地面に打ち込むと、印を結んで呪を唱えた。
「結界滅印!」
正確に打ち込まれた苦無の間に光が走り、六角形の陣が組みあがる。
「すげえ」
呟いた蓬莱寺の隣で、美里も目を見張っていた。
如月は振り返ると、険しい表情で二人に言う。
「蓬莱寺君、美里さん、手伝ってくれ」
「な、なにを、どうすりゃいいんだ」
「この規模の結界は僕一人では消せない、だから、二人の気を合わせてこの中に打ち込んで欲しい」
「中って」
「なんでもいい、君も発剄が使えるなら技があるだろう」
蓬莱寺は頷いて、紫布の中からすらりと木刀を抜いた。
「如月君、私はどうすれば」
「美里さんは祈ってください、光の事を、強く」
「はいっ」
胸の前で両手を組み合わせて、美里は瞳を硬く閉じる。
「待ってろよ・・・姫」
木刀を構えながら、蓬莱寺は呟いていた。
「今度こそ、絶対、お前を守って見せるからな・・・!」