黒沢朋也は凄い奴だ。

何でもできるし、何でも知ってる、顔もよくて背も高い、声だっていいし、性格までいい。

(なのに彼女ナシだなんて、変な奴だと思ったんだよな)

陽介は自室でクッションを抱えながらベッドの上に転がっていた。

家に戻ってすぐ引き篭もり、流石に部屋着には着替えたけれど、それ以上は何もする気が起きなくて、もうすぐ深夜を過ぎるというのにずっとグダグダ考え続けている。

 

―――あのときの朋也の表情が忘れられない。

優しい声はいつもどおりだったけれど、凍えるような目をしていた。

『欲しいものは手に入らないから、いいんだ』

『昔は凄く欲しかったけれど、今はもういいような気もしている、今も欲しいのかもしれないけれど、手に入るかどうか判らない』

『判らないものを待つのは、やめたんだ』

(何だよそれ)

畜生、と呟く。

(黒沢、お前の欲しいものって一体何なんだよッ)

ボリボリと髪を掻き毟って、クッションに鼻先を押し付けた。

こんなとき、鈍い自分がつくづく嫌になる。

 

そう―――ずっと、鈍かったのだ。

 

朋也はいつでも陽介の傍らにいてくれた。

何かを諭すわけでもなく、導くわけでもなく、ただ話を聞いてくれた。

陽介のためにたくさんの時間を費やしてくれた。

(それが当たり前みたいな顔してたんだ、俺)

気付いたのは今日、それも、自分の発した何気ない一言で。

悔しくて自身に憤る。

いつからだ?

(いつから俺は、アイツに何もかも預けっぱなしにしていた?)

―――この想いは依存じゃない、俺は黒沢が好きなんだ。

そんな言葉で脚色して、本当は何も見えていなかった、わかっていなかった。

俺の気持ちと、朋也の想いは、完全に別のものだ。

俺一人溜まった膿を吐き出してスッキリしても、預けられた朋也はどうする?

頼って、圧し掛かって、身勝手に暗い心を押し付けて。

(全然対等じゃない)

クッションを握り締める。

(お前も頼りにしてくれ、なんて、言えない)

俺には朋也に頼られる資格がない。

 

(黒沢)

 

優しい笑顔が浮かぶ。

耳に心地のいい声や、穏やかな話し方が甦ってくる。

お前の差し出してくれた手を取って、俺はどうにか歩き出せたけれど、もしお前が立ち止まってしまうようなことがあったとき、お前は俺を頼りにしてくれるのか?

(俺、バカだ)

朋也はきっと、誰の事も頼りになどしない。

(本当にバカだ)

受け入れる事が無いから、頼るものも必要としていないのだろう。

(それは誰もお前の気持ちに気付いていないから?)

―――多分違う。

 

朋也は怖がっている。

理由はわからないけれど、あの時、あの台詞から、漠然とそんなことを感じた。

 

(黒沢)

黒沢朋也は凄い奴だ。

(黒沢)

何でもできて、何でも知ってる―――だけど。

(なあ、黒沢)

多分、自分のことだけ、よくわかっていない。

(俺、お前のことが知りたいよ)

お前の欲しいものが知りたい。

もしそれが、俺なんかでもどうにかできるものだったら―――全部あげたい。

(俺はお前の、たった一人になりたい)

お前が俺のたった一人のように。

 

朋也のことばかり考えながら、陽介はつらつらと夢の世界へ落ちていった。

夢の中でも朋也の姿を見たような気がしたけれど、朝になれば、それがどんな内容で、何を話したのか、何一つ覚えていなかった。