奴に嫉妬している。

これまでそれなりにたくさんの人間を見てきたけれど、アイツみたいなタイプにはお目にかかったことが無い。

アイツは、凄い。

あんまり喋らないくせに意志の疎通はバッチリだし、何かコツでも知っているのかジャンルを問わない慕われ方が半端ない。

幾ら稲羽が閉鎖傾向のある田舎町だからって、たった一ヶ月でこれだけの人脈そう築けないだろう?

今じゃ商店街のじーさまや、河川敷で遊ぶ子供にだって、奴の顔と名前はいい意味で知れ渡っている。

オマケに勉強もできる。

運動だってそつなくこなす。

楽器まで吹けるし、背も高い、足も長い、何より顔がいい。

(オマケに声までいいなんて)

詐欺だ。

神様はどれだけ不公平なんだろう。

(俺は)

これだけ傍にいて。

(多分誰より一番お前の近くにいて)

皆も頼りにしているだろう、その広い背中を、最前列で追う権利を与えられて。

(それで)

―――好きにならずにいられるものか。

甘くて冷たい魅惑のシャーベット。

見詰めていたい、触れてみたい、叶うことならどうか一口、手を伸ばしたら届きそうで、けれど指先すら掠らない。

(俺がもっと単純ならよかったんだよな)

生憎、羨望の眼差しを向けるだけで居続けるには、言葉を交わしすぎたみたいだ。

知ってしまったから。

外見からは計り知れない、大きな度量と温かな心を。

許されることに身を委ねて、すっかり甘えきってる俺は、今更どうやって距離を取ればいい?

(そんなの無理だ)

朋也。

黒沢朋也。

(好きだ)

堪らない、胸の奥が焼け付くように焦れる、どうにかしたい、でも、どうにもできない。

(欲しい)

苦しい。

(欲しい)

喉をかきむしって叫ぶ。

(ほしい!)

 

―――そうして目覚めた朝、花村陽介は切なくて、息を殺し布団に顔を押し付けて、泣いた。

 

「おはよ」

「ん?何、親父」

「え?ええッ、何だよそれ、知らねえよ」

「嫌だよ、そんなことしてる暇ねえっつの」

「は?ちょ、ま、待った、何言ってんだ、無理に決まって」

「ちょっと待てよ!親父!!―――だー、ちくしょ、どうすっかなあ」

(アテなんてねえし)

(でも)

「―――聞くだけ、聞いてみるか」

(頼まれてくれるだろうか)

(分かんねえ、けどアイツならきっと)

「―――はぁ」

(あんな夢見た後だってのに)

 

(甘えてばかりいたら、どっかでしわ寄せが来るんだろうか)

 

「いってきます」