案の定、降り注ぐ雨が窓の桟に溜まり、雫となって絶えず滴り落ちている。
今朝の雨は正午になっても止む気配がない。
雨音と教師の声ばかり聞こえてくる教室内は憂鬱だ。
しかも、膨れた腹の消化機能にエネルギーを裂いて血の巡りの悪くなった頭では何も考えられない、やる気が起こらない、正直授業も鬱陶しい。
周囲の脱落者に紛れて陽介も睡魔の餌食になりつつあった。
うつらうつらと舟を漕ぎながら、視界に映る広い背中をずっと見ていた。
(最初、俺は恋をしていると思ったんだ)
馬鹿らしい感情、本来同性に抱くべくもない想い。
けれど理屈じゃない、恋慕の情は常識で測れるものじゃない。
(でも、違ったとも思った)
それは依存だろうと誰かに言われた。
いつの出来事かは思い出せない、もしかしたら夢の中で起こったことかもしれない。
しかし陽介の足元は揺らいだ。
不安が、恐れが、霧のように胸に充満していった。
確かにそういう一面があることも否定できない。
春先に稲羽を訪れた転校生は、優しくて、誠実で、頼りがいのある、大らかな性分の持ち主で。
(いつの間にかこの辺の殆どの奴等と知り合いになってんだもんな)
老若男女、果ては人獣の区別なく、数多の者達から好意を持って迎え入れられている。
それは凄い事だと思う。
望まれず稲羽を訪れたような自分とは対照的なポジションだ、事実、陽介には今でも商店街に属する人々から疎まれている実感がある。
(だから甘えてんだろうと思った、そういう好きじゃなくって、俺は、アイツによっかかりたいだけなんだろうって)
何もかも押し付けて―――春の、辛く苦しい記憶すら預けて。
(楽になっちまおうって)
それを『恋』と定義して、不安定な心に目眩ましをかけて。
(でも―――それすら多分、違う)
最初はそうだったかもしれない。
春先の思い出を振り返るたび、陽介は足元がさざめいて、まともに立っていられないような感覚を覚える。
今だって完全に乗り越えられたわけじゃない。
それでも今はもう『違う』と思える。
少しずつ降り積もっていった、気付けばそれは陽介にとっての『真実』になっていた。
(俺は)
―――伝えなければ。
(俺にとっての『真実』を)
そうしないと―――これからもずっと、朋也の傍らを歩み続けることはできない。
(だから、言うんだ)
雨がさあさあと降っている。
半袖では少し寒いようで、身震い一つすると僅かに目が覚めた。
明日、言おう。
朋也は真面目に授業を受けているようだった。
背中に触れて、振り返ったアッシュブルーの瞳を見たいと思った。
(黒沢、俺は)
天気予報を信じるなら、今夜の内に雨は止むだろう。
シャープペンシルの尻をトントンと指で叩き、改めて気合を入れなおすと、陽介は真っ白いノートにおざなりに黒板の文字を書き写し始めた。