朋也は何を言いかけていたんだろう。
電話を切ってから、陽介はぼんやりそんなことを考えていた。
(どうせ、俺の思ってるようなことじゃないに決まっている)
―――知ることが怖くて、話を切り上げたことが、今更ながら悔やまれた。
(何であんとき口滑らせちまったんだろうなあ)
声はいつだって聞きたい、うっかり告げた言葉は嘘じゃない。
けれどずっと―――あの夢を見た日からずっと、伝えたい思いが膨らみ続けていて、気付いたら朋也の番号をコールしていた。
受話器から声が聞こえてくるまでの間、心臓が爆発して死んでしまいそうだった。
声を聞いた瞬間気が遠くなりかけた。
しかし裏腹に陽介の口は軽快な調子で会話を試みて、全然関係のない弁当の話などしたものだから、あっけなく朋也に見破られ突っ込まれてしまった。
俺は馬鹿かと思う。
(意味わかんねえし、一方的に切っちまったし)
朋也怒ってるかな。
そんな風に怯える自分に腹が立つ。
(ビビるなら、言わなきゃよかったじゃねえか)
怖い夢を見た、その程度の話に収めておけばよかったのだ。
何をトチ狂って告白などしてしまったのだろう。
しかもあっけなくフラれてしまった。
―――あの反応で脈があるなど万に一つも思えない。
(けど、あいつ話の注目ポイントどう考えても間違ってるよ)
気持ちが嬉しい、と言われて沸き立った胸のトキメキを返して欲しい。
(天然系なんだよなあ)
はあ。
溜め息が漏れる。
けどそこが可愛いんだよなーと、付け加えてマクラを抱え込みベッドの上をゴロゴロと転がりまわる。
朋也にとって案ずるべきは陽介の惧れに対してのみであり、その時どさくさに紛れて告げた『好きだ』は精々が弱気ついでの気の迷い程度に取られてしまったのだろう。
まあ、もっともかとも思う。
普通、同性の告白をいきなり真に受けたりしないだろう。
気持ちの悪い冗談、そう思われて終わりだ。
(いや、本気だってわかったら、流石のあいつだって)
―――朋也は滅多な事で『否定』をしない。
陽介にとどまらず、仲間たちの弱いところ、脆いところ、醜いところ、そういう負の部分全部ひっくるめて受け止めてくれる。
だからどんどん自惚れて、調子に乗って付け入ろうとする卑怯な自分を陽介は知っていて、多分そのつけが今日回ってきたのだろう。
結局そういうことだったのだ。
(一方的な片思い―――わかってたけど、結構、キッツイな)
数ヶ月前に亡くなった、仄かな恋心を寄せていた女性の姿が脳裏に浮かぶ。
今年一年で二度も振られてしまったのか。
しかも、今回はいつになく本気だったというのに。
(まあ、男に本気って地点で間違ってんだけどさ)
最初は頭がおかしくなったのかと思った、けれど、次第に溢れる気持ちを抑えきれなくなっていた。
川原で抱きしめられたとき、全てを理解したのだった。
直後に気の迷いと否定して、煩悩纏めて殴り倒して貰うべく、改めて相棒に無茶な頼みまでした。
結果は―――ご覧の通り。
陽介は恋心を痛感させられただけだった。
殴り合おうがなんだろうが、好きなものは好きだ、俺は朋也をそういう対象として見ている。
(けど、あいつはそうじゃなかった)
当たり前か。
呟いて笑う。
なんだか涙が出てきそうだ。
男なのに、男にフラれて泣くなんて、馬鹿を通り越して変態に違いない。
(俺変態だったのか)
溜め息を吐いてマクラに顔を押し当てて、今夜また朋也の夢を見てしまうに違いないと、情けない自分に陽介は再び力なく笑ったのだった。