出入り口に使っているレトロタイプのテレビが積み上げられた広場。

劇場から出てきた一同を見た完二とクマは、驚くと同時に事情を知りたがった。

見たこともないシャドウが出現した事。

その所為で酷い目に遭い、体制の立て直しを余儀なくされた事。

道すがら説明して、広間に到着する頃には、結局今日の探索はこれで打ち切ろうという結論に至っていた。

「先輩、そのままじゃ外に出られないでしょ?」

確かに。

こんな格好、現実で晒せば、何があったと大騒ぎされるに違いない。

半裸に近い朋也の姿を見た当初、クマは気遣いつつも瞳を輝かせ、完二に至っては鼻血を吹きながら卒倒してしまった。

気付いてからの完二はなるべく朋也を見ないよう心がけているようだったし、クマはずっと陽介と小競り合いを続けている。

「センセー、今日のブラジャー水色クマね、クマ、もっとよく見たいなー」

「コラ!このエロクマ、近づくんじゃねえ!」

「なあにー?ヨースケはカンケーないでしょー?邪魔しないで欲しいクマ!」

「黙れ、相棒が視姦されて黙ってられるかってんだよ、このやろ、あっちいけっ」

「ずるいクマ!どうせヨースケだって散々見たはずクマ!クマにもオソソワケプリーズ」

「一緒にすんな!」

―――お前は舐めてすらきたくせに。

いがみ合い続ける2人を白い目で眺めながら溜息を漏らす。

フロアに戻った途端、完二は「すんません」と逃げるようにテレビを抜け出て行ってしまった。

少女達も朋也の服を取りに現実側へ戻っている。

くだらない応酬にすら飽きて、少し離れた場所に座り込んだ朋也は自分の腕を眺めていた。

―――先ほどのアレは、一体なんだったのだろう。

(光ってたよな)

肌をスルリと撫でる。

(触ったら、花村は息を吹き返した)

けれど今、蘇生能力を持つペルソナを所持していない。

―――そもそも俺はペルソナを発動させていないじゃないか。

誰か別の腕みたいだったよな、と、掌をじっと見詰める。

不思議な感覚だった。

体の内側から何かが湧き上がり、乗り移られるような―――それは、ペルソナ発動時に少し似ていた。

(なら、あれもペルソナ?)

ズキンと鋭い頭痛が走る。

頭を抑えて蹲った朋也に、どうしたと二つの足音が駆け寄ってきた。

「センセー、具合悪いクマ?」

「いや」

「大丈夫か相棒、無理するなよ?」

「平気」

顔をあげて微笑んだ朋也を見て、クマと陽介は顔を見合わせていた。

「クマ、お薬貰ってくるクマ」

「え?」

急に着ぐるみが走り出していく。

「おいクマ、頭痛の薬判るか!」

「こないだヤマムラさんが教えてくれたクマー」

「ああ、頭痛持ちの、そっか、じゃあ買って来い!売り場はわかるな?」

「だいじょぶクマ!」

「俺はここに残って、相棒見とくから」

テレビに片足を突っ込んで、ふと振り返ったクマがジットリした視線を陽介に向ける。

「―――誰もいないからって、センセーにイタズラしちゃダメクマよ?」

「しねぇー!バカっ!早く行け!」

怒鳴り散らす陽介の声に追い立てられるように、クマの姿は画面の向こうに消えていった。

後を何故かキツネまでついていく。

―――完全に2人きり、取り残されて、きょとんとしている朋也の隣に、陽介が腰を下ろす。

「やれやれ、アイツちゃんと薬買ってこれるかな」

「心配ならついて行ってやれば?」

「バカ言え、お前一人残していけるか」

振り返った互いの視線が合う。

そのまま見詰めていると、急に陽介は切ない表情を浮かべた。

「朋也」

体を寄せつつ、反対側の腕を伸ばしてくる。

指の側面でそっと顎の輪郭をなぞられ、頬にキスされた。

黙っている朋也に熱を孕んだ眼差しを向けて、肩に頭を乗せてくる。

頬から額に、転がるように擦り付けて、再びゆっくり起き上がり、見詰める鳶色の瞳が「あのさ」と小さく呟いた。

「あんまり頑張んないでよ」

朋也は、多分不思議そうな顔をしていたのだろう、陽介は苦笑いを浮かべていた。

「―――今の状態納得してないって知ってるよ、お前が焦るのも分かるし、元がすっげえ強いって事も知ってる、頼れる俺らのリーダーってポジションだって全然変わってない」

でもさ。

再び首筋に顔をうずめる。

「今は女の子だっていうのも、紛れもない事実なんだ、だからさ、いつもみたいにやろうとすんな、らしくないよ、お前―――お前はさ、自分のことちゃんとわかってて、無理も無茶もしない奴だったろ?」

「してない、そんなこと」

「俺にまで強がるな」

ぎゅうと抱きしめられる。

朋也の、今は華奢な体が、ビクンと震えた。

(ああ)

―――また。

指先で探り当てた陽介のシャツを握り締める。

「俺、お前に言ったよな、対等になりたいって、俺がお前を頼りにするみたいに、お前も俺を頼りにして欲しいって」

脳裏に星空の情景が浮かんだ。

「こういうときこそ、そういうの思い出してくれよ、お前は一人じゃない、俺がいつも傍に居るんだから、もっと甘えて、ワガママ聞かせてよ、お前のためなら俺、何だってするよ」

「―――何でも?」

「ああ」

ふと顔を上げた姿が、唇を求めてくる。

深く混じり合わせながら、朋也は今の言葉を反芻していた。

何でも。

何でも、してくれる?

(そんな無責任な台詞、どうして簡単に口に出せるんだ)

頭が痛い。

花の香りが鼻腔を掠める。

(どうして)

細い腕がスルリと伸びて、陽介の体を引き寄せた。

(どうして俺を求めるんだ?)

強い力で抱き返される。

床に押し倒されながら、何度も唇を重ね合わせた。

(陽介はどうして、今の俺をこんなにも求めてくる?)

絡み合う舌先が銀糸を引き、赤く染まった唇で陽介が朋也の白い喉元をなぞる。

力強く揉まれた乳房がズキンと痛い。

(やっぱり)

―――あの言葉。

(そうなのか?)

―――違う。

(勘違いじゃない、気の間違いなんかじゃない、俺は)

這い寄る混沌に抗うように、指先が知らず陽介の肌に爪を立てていた。

「痛っ」

途端ハッと我に返り、朋也は陽介を見下ろす。

「ご、ごめん」

「や、いいけど」

苦笑いの姿を眺めているうちに、はたと現状に思い至った。

(え?)

背中に触れる固い感触。

陽介越しの煙った白い空、どこからか差し込む照明の光。

(俺、なんで)

横になっているのだと気付いた。

即座に朋也は力一杯陽介の頭を押し返そうとする。

「うわ、な、何?」

突然の抵抗に驚いた表情が叫んだ。

「それは俺の台詞だ!ど、どさくさに紛れて何を」

「何って」

―――陽介の目の色がスウッと変わる。

淡い金の光を湛えた瞳が急に強気の眼差しで朋也を見下ろし、突き出した腕を逆に捕まえて、力尽くでねじ伏せようとしてくる。

(冗談っ)

「ふざけるなっ」

「ふざけてなんかナイ!」

渾身の力で押さえつけられてしまった。

乗り上げてくる陽介に、朋也は誰か戻ってきたらどうすると怒鳴りつけた。

(それこそ、言い逃れできないぞ!?)

「見られてやるのも結構快感かも」

「こ、この、変態っ」

「ひっでえなあ、それが恋人にいう台詞?」

「酷いのはどっちだ、最低だ、花村っ」

「ハイハイ、ちょっと静かにしようね」

開きかけた口を言葉ごと陽介の唇に塞がれて、舌で口腔内を舐られる。

「ンムッ」

狡猾な相棒は恋人の怯んだ隙を見逃さず、スカートの内側にスルリと手を滑り込ませてきた。

ギョッと目を剥いて逃れようと暴れる四肢に圧し掛かり、押さえつけて、ショーツの内側に指を這いこませる。

(ちょっ、と)

強引に襞を掻き分け入り込んできた指先が膣壁をグニグニと揉み解していく。

初め、痛みと圧迫感だけだった行為は、やがて甘やかな熱を生み、同時に朋也の内側を潤ませていく。

思いと裏腹に敏感な部分はたっぷりの蜜で陽介の指を滑らせる。

唇の端から漏れる吐息に、悩ましい声が混ざり始めた。

強く握られたままの手首が痛い。

徐々に動きが緩慢になり、やがて、抵抗を諦めた朋也がクッタリと手足を投げ出す頃には、ショーツの内側からグチュグチュと卑猥な水音が溢れ出していた。

漸く唇を解放されて、朋也は乱れた呼吸と共に喘ぐ。

「んあっ、ハッ、アうっ」

瞳に涙を浮かべて、影になっている陽介を強く睨み付けると、淡い金の光を湛えた鳶色の瞳は悪びれもせず、濡れた口元をペロリと舐めて愉悦を孕んだ笑みを浮かべた。

「お前のここ、もうぐちょぐちょ、これでもまだ止めて欲しい?」

「く、そ、お前―――覚えてろ、よ」

「女の子がそういう口の利き方しちゃダメだろー?」

頬にチュ、と口付けされて、朋也は悔しげに溜息を漏らす。

「―――するなら」

「ん?」

「早くしてくれ、本当に―――誰か戻ってきたら、困るっ」

陽介はわざとらしく目を見開いて、挿れちゃっていいの?と聞き返してきた。

(こいつっ)

「その、つもりだったんだ、ろっ」

もう限界だ。

目を閉じ、早くしろと吐き捨てた。

耳に浮かれた笑い声が聞こえてくる。

「お前の方から挿れて、なんて言って貰えるなんてね」

言ってないと呻く。

「嬉しいよ朋也」

瞼の上に柔らかくて温かな感触を押し付けられる。

目尻の涙を舐め取られた。

ちゅぽ、と指が引き抜かれた後、ショーツをスルリと下ろされて、露にされた陰部が外気に触れる。

衣擦れの音と蠢く気配の後、潤み、火照った朋也の柔らかな秘唇に、熱を帯びた硬質な感触が押し付けられた。

(う)

思わずそろそろと目を開いた途端、蜜壷の奥まで一気に穿ち上げられる。

「ひあああっ」

衝撃で仰け反り、そのまま全身を戦慄かせる朋也を見下ろして、首の辺りまで赤く染めた陽介が荒い呼吸を繰り返す。

「―――朋也」

「あ、あ、あっ」

「一気にやるぞ」

「はッ、んぅっ」

「あんま時間ないから、ちょっと乱暴するかもだけど、ゴメンな」

「い、今更、謝るな!」

ちゅ。

「―――帰ったら、もっとゆっくり、いっぱいしような?」

おもむろに両足を抱え上げられる。

クッと唇を噛み締めて、覚悟を決めた朋也が予想していた以上に、陽介は激しく腰を打ちつけ始めた。

乱暴に出入りを繰り返す男根の感触に、朋也の体がガクガクと震える。

「あ!あ!ああっ、ああっ!」

「朋也、朋也っ」

「よ、すけ、はぁっ、ン、あっ、アアッ、ん、んぅっ」

何度も唇を重ねあい、肌にしゃぶりつく陽介を抱きしめ、荒々しい交わりは二人の正気を一気に吹き飛ばす。

夢中で膣奥を突き上げてくる陽介に合わせるようにして朋也も腰を使い、両足を絡みつかせてもっと中へと引き寄せる。

朋也の背中に腕を回して、陽介も、もっと奥を、と抱き寄せた。

二人の肌のぶつかり合う音の合間に、ちゅぽちゅぽと蜜の掻き出される音が混じる。

しっとりと結び目を湿らせて、しがみつく朋也と、捕える陽介は、夢中で口付けを繰り返した。

腿に当たる腰骨の感触を覚える意識が徐々に白く染まっていく。

唇を引き剥がし、名残惜しく舌を伝う糸の先の蕩けきった瞳を見詰め合って、ぎゅうと抱きしめられた朋也の耳元で、陽介の苦しげな声が漏れる。

朋也も、背中に回した両手で、シャツを握り締めた。

根元まで深々とうずめられた男根から精が迸る。

「っつ、あ!」

「ああっ、あああっ、ああっ」

ビクビクと体を揮わせ合って、どこからが自分で、どこからが相手なのかわからなくなるような感覚に意識を飛ばし―――ふ、と、我に返ると、緩々と弛緩を始める体を、ゆっくり床に下ろされた。

そのまま陽介も朋也の上に圧し掛かってくる。

満ちていた質量を引き抜かれた膣から蜜と精の混ざったものがとろりと零れだす。

ウットリ目を閉じていたら、そっと口づけられた。

見開いた視線の先、陽介が、満足げな笑みでフニャリと笑いかけてくる。

「しちゃったな、最後まで」

「クマに釘刺されたくせに」

「いいだろー、お前が可愛いのが悪い」

「言ってろ、馬鹿」

きゅ、と抱きしめてくる陽介に、朋也も腕を廻して、溜息を漏らした。

悔しいはずなのに怒る気になれない。

持て余し気味の複雑な心境と裏腹に、乗り上げた重みは暖かくて心地良い。

とりあえず今だけはこのままでいい、と、朋也は陽介越しの靄のかかった空をボンヤリと眺めていた。

 

*****

広間の段差でグッタリと傍らの温もりに凭れかかる。

あれから―――陽介は驚くほど手際よく後始末を終え、仲間達が戻ってくる頃には何食わぬ顔で朋也を気遣ったりなどしていた。

情欲の嵐に晒された肢体は僅かな動作すら億劫で、それは、傍から見ればかなり具合悪く映ったのだろう。

心配して気遣ってくれるクマと少女達に、けれどまさか本当の事など話せる訳もなくて、朋也は苦い思いと共に微笑み返す事しか出来なかった。

―――下肢にまだ疼くような熱が残っている。

「花村」

陽介が朋也から千枝に視線を移す。

「ああ」

今の相棒は、何だか保護者の様な振る舞いだ。

凭れている朋也の肩を抱き寄せて、片方の手を握られている。

「とりあえず、着替えさせて、薬飲ませたら、家に連れて返る」

「今日こそはクマも一緒に」

「お前は居残り!こいつの状態見て、早くどうにかしてやりたいとか、そういうこと思わねーのか!?」

「うう、しどい、脅迫クマぁ」

「うっせ!大体お前が傍で騒ぎまくったら、よくなるモンもならねーだろが」

「ヨヨヨ」

「心配すんなよ、こいつなら、俺がちゃんと看病すっから」

花村、と千枝が繰り返した。

「お前もそんな気にすることないって、元男だし、体力あんのは知ってるだろ?一晩寝たらきっと元気に」

「そうじゃなくて」

言葉の途中を遮られる。

「―――あのさ、もし、判ってやってんなら、私たち、アンタを殴らないといけないんだけど」

ギクリ。

寄りかかる陽介の体が僅かに強張った。

朋也の掌にもいやな汗が滲み出してくる。

まさかとは思うが―――ばれたのだろうか。

(いや、そんなはずはない)

目に見えて判る痕跡など残していないはずだ。

それは朋也も一緒に確認したから知っている。

(大体、待ってる間にセックスしてたなんて思わないだろ)

股間の内側がきゅんと甘く攣れた。

(それとも変な臭いでもするのかな、俺)

運良くスペアを持っていた生理用品は新しいものに交換しておいたけれど、たっぷり注ぎ込んでくれた陽介の精が動く度コポコポと零れだしてくるものだから、正直気が気でない。

朋也はキュッと腿を閉じ、少しだけ体を縮こまらせた。

「花村君」

いつになく険を孕んだ雪子の声。

「花村先輩」

明らかに怪訝な様子のりせの声。

陽介が怯えた様子で「はい?」と答える。

内心馬鹿、と呟いて、朋也も恐々と少女たちを見上げた。

直後、朋也はりせと雪子に抱きかかえられ―――ショーツの内側でこぽりと精が零れる。

そして、陽介は千枝の鉄拳制裁を喰らっていた。

 

「着替えるって言ってんだから、クマ連れてさっさと出てけ、このスケベ!」

 

もんどりうって倒れる陽介に、クマが悲鳴を上げながら駆け寄っていく様子が見えた―――