店から出るとすでに日が西に傾き始めていた。

終着駅の八十稲羽まで走る車両は本数が少ないから、急ぎ駅へと向かい、運良く発車直前の電車に滑り込めた。

車内は帰宅ラッシュで混み合う、という表現までは及ばずとも、それなりの人数がひしめき合っていて、朋也は陽介に車両の隅まで連れて行かれて、そこで壁に背中をつけ、陽介が正面に立ち、囲われるような状況を作られた。

(痴漢のこと、大分根に持たれたみたいだな)

もっとも、他に同様の絶対領域を作り出している恋人達がいないわけでもなく、二人の姿は難なく風景に溶け込むことが出来た。

走り出した車内で陽介はずっと甘ったるい台詞を囁きながら、合間に軽いキスを朋也に施す。

(傍から見れば唯のバカップルにしか見えないだろうな、今の俺たち)

やがて、徐々に周囲の人数が減っていった。

タタン、タタン、タタン。

単調なリズムを刻みながら電車は田園風景を抜けていく。

照明が点いていてもどこか薄暗い雰囲気の駅で停車する度乗客を吐き出し、また走り出す。

席にゆとりが出来てきたので、二人はそちらへ移動した。

陽介は朋也を長椅子の一番端に掛けさせて、その隣にぴったりと身を寄せるようにして自分も座り、再び他愛ない言葉を囁いてくる。

朋也はなんだか疲れてしまって適当に相槌を打ちながらボンヤリしていた。

男同士なら、まさか、こんな行為には及ぶまい。

そんな考えが胸をチクチクと刺し、煩わしくて考えることすら放棄した。

再び駅名を告げるアナウンスが流れる。

八十稲羽に近づく頃には車内に他の客の姿はなくなっていた。

隣の車両に続くガラス窓の向こう、どうやら椅子に寝そべっているらしい、顔は見えないけれど、男物のシャツだけチラチラと見え隠れしている。

「朋也」

陽介がおもむろに朋也の肩に腕を回す。

「今日、ゴメンな」

首を向けると、申し訳なさそうな視線と目が合った。

「お前ンこと、気晴らしさせてやるつもりだったのに、こんなことになっちまって」

疲れたろ、と髪を撫でて、こめかみに唇を押し当てられた。

苦笑いの朋也は「お前の所為じゃないだろ」と陽介の胸を軽く小突き返す。

「プールの事は不可抗力だ、忘れろ」

「でも」

「こっちまで引きずるだろ、もういいから、気にするな」

「だって」

「ああいう場所で泳いだの久しぶりだったし、楽しかったよ、それに、二度と出来ないような格好もしたし」

「ああー、うん、朋也の水着姿、最高可愛かった」

「それは、どうも」

「また個人的に見せてよ、俺の部屋とか、テレビん中でさ」

バカ、と言って朋也は陽介の頭を叩く。

「お前は本当に懲りないよな、そんな事より、もっと気にすべき事があると思うんだけど」

「何?」

「ファミレスで俺にした事!もう忘れたのか?」

「―――ああ」

陽介はふと苦笑いを浮かべた。

「アレね」

「今日一番の不快な出来事だった」

「ひっでえなあ」

けどさ、と、肩の腕が朋也をグッと引き寄せる。

スカートの上から腿を撫でられて、怪訝な瞳を陽介に向けた。

「ここ」

スカートの表面を滑り、露になっていた膝に触れ、それから、今度はスカートの内側に指先が肌を伝い滑り込んでくる。

「言う割には、ぐっちょりだったんじゃない?」

「こらッ」

朋也はスカート越しに陽介の手を押さえて軽く睨みつけた。

けれど悪びれない表情は薄く微笑んだだけで、逆に朋也の耳元に唇を寄せ、耳朶を甘噛みした。

「俺の靴下、朋也のエッチな汁の匂いがしてそう」

「お前」

首筋を舐め上げられる。

それだけで、先程不完全燃焼気味に放置された微熱が反応してしまう。

(こんな場所で、嫌だ)

朋也は体を逸らしながら、反対側に陽介をグイグイと押した。

けれど圧し掛かってくる体重は朋也の肌を舐め、齧り、その合間にどうにかしてスカートの奥に進入を果たそうと手に込める力を強くする。

「お、お前、ここをどこだと」

「電車ン中」

「人に見られたらッ」

「平気、平気」

誰もこないって―――肩に廻されていた腕が、急にぐいと朋也を引き寄せた。

その所為でバランスを崩した隙を突いて、陽介の手は朋也の束縛を逃れ、あっけなく目的の場所に触れた。

「うわッ」

指先がクロッチの部分を確かめるようになぞっている。

「あー、やっぱりまだぐしょぐしょ」

湿った布の上からグイッと押されて、朋也の唇から淡い声が漏れる。

「や、やめろ陽介、流石に怒るぞ」

「大丈夫だって、心配性だな、回り見ろよ、誰もいないから」

「け、けど、隣の車両に人が」

「気付くわけ無いって、あっちのおっさん居眠りこいてるし、ホラ」

確かに椅子に横になっているようだが、本当に寝ているのだろうか。

(もし目が覚めたら、もしこっちの車両に来たら)

グルグルしている朋也の股間を陽介の指先がショーツ越しにくち、くちと弄り続けている。

車内アナウンスが次の駅名を告げた。

朋也はギョッとして、やめろ、と、スカートに突き込まれた陽介の腕を掴んだ。

「え、駅だ、人がッ」

「今頃戻りの電車に乗る奴いるかよ、大丈夫だって」

くにゅ。

指で突き上げられて、朋也はヒッと声を震わせ陽介にしがみついた。

「や、ヤダ、陽介、やめ」

クロッチの端から指先が這いこんでくる。

ダメ、ダメと首を振る朋也に構わず、湿った布の内側で、ぬるついた花弁をなぞり始めた。

漏れ出す水音に目を閉じて、キュッと陽介の服を握り、せめて大きな声だけは出すまいと震えている朋也の唇を陽介は奪う。

徐々に減速を始めていた車両が不意に大きく軋み、停車するような気配にハッと見開いた視界の向こう、窓ガラス越しのホームの光を見て、朋也は瞠目した。

(嘘だろ)

陽介の唇は、まだ朋也の唇に重なったまま。

抱き寄せられ、無造作にスカートに突っ込まれた腕の、指先がクチクチと陰部をまさぐっている。

―――こんな姿、もし他の誰かに見られたら。

バクバクと鳴り響く心音と共にドアがゆっくりと開き、夏の温い外気が車内に流れ込んできた。

ほんの少し、静寂の勝る辺りに朋也の蜜壷をかき混ぜる音だけやけに大きく響く。

やがて、扉はゆっくりと閉まり、電車は何事もなかったように走り出した。

極度の緊張から解放された朋也は、顔を上げた陽介をボンヤリ眺める事しか出来なかった。

「はッ、あ、ア」

「ほーら、な?」

誰も乗ってこなかっただろ?

(コイツッ)

ジワジワと怒りが込み上げてきて、けれどそれ以上に体はすっかり発熱してしまっている。

「あれ、顔真っ赤、もしかして結構興奮した?」

「ち、違ッ」

反論しかけた朋也の中に、陽介の指がグチュ、と埋められた。

ぬかるんだ中をグチュグチュとかき混ぜて、その度大量の蜜が肌を伝いトロトロと零れ落ちていくのが分かる。

「やハッ!あッ、あッ、ああッ」

「すっごい、ここ、洪水みたいになっちゃって、体は正直だよなー」

「や、やめろ、バカッ」

口で抗ってみても、どうにも力が入らない。

すっかり蕩けた体は心と裏腹にされるが侭だ。

「朋也、中ヒクヒクしてる」

首に、頬に、口付けを繰り返しながら、陽介は柔らかな肉を夢中でこねくり回している。

ちゅぽちゅぽと指の出入りする感触に震えているうちに、次の駅に到着してしまった。

再び口付けられ、今度はあからさまにスカートの中で腕を動かされながら、ドアが開く。

一瞬スウッと肝が冷えた。

けれどやはり乗客は現れず、扉はゆっくりと閉まり、再び走り出した車内で漸く安堵すると、すかさず陽介が唇を重ねてくる。

「朋也」

肩の腕は抱き寄せた朋也の正面に下ろされ、片方の乳房を揉んでいた。

多分電車のシートまで滲みになっているだろう。

(も、あんまり考えたく、ない)

窓の外を暗闇が流れていく。

辺りには誰もいない。

煌々と照らし出された車内の、色々な人が利用する場所で。

「あ、あッ」

電車の走る音、軋む音、陽介の息遣い、朋也の息遣い、濡れた音と、衣擦れの音だけ聞こえる。

「あ、んむッ、ん、ンンッ、ンは、あッ、アッ」

グチュグチュとショーツの中をかき回されて。

(だ、め)

陽介の唇が肌をなぞり、敏感な部分を執拗に攻め立てる。

ジワジワと意識に靄がかかり始めて、気付けば内股が震えだしていた。

それでも、こんな場所で大声を出して気付かれてはいけないと、必死で口を押さえた朋也の目尻から雫が一粒零れて落ちる。

それを陽介がペロリと舐め取った。

「いいよ、いきなよ」

耳元で囁かれた。

(だ、め)

「どうして?気持いいんだろ、イッていいよ」

(やッ)

「我慢するの、体に良くないぞ」

ほら。

耳朶を噛まれて声が漏れる。

輪郭から首筋を伝うように舐められて、首の付け根に吸い付かれた。

途端、朋也はビクリと体を震わせ、荒々しく花弁の奥をかき混ぜる指先の動きに合わせるように艶やかな声と蜜を溢れさせる。

「ひあッ、あッ、アッ、アッ!」

―――駄目だ、もう。

アナウンスが聞える。

(次の駅に、もう着く)

頭の中が真っ白に染まる。

腰が震えだして、限界が近いと悟った。

今度こそ見つかってしまうと、怯える心を見透かすように陽介が唇を重ね、吐息ごと吸い上げられて、朋也の意識は花火のように弾けた。

しがみつく体をしっかりと抱きしめてくれる。

緩々と弛緩が始まり、離れていく唇の間に銀糸が引いて、ぼんやり見上げた陽介は柔らかな笑みを浮かべていた。

そのまま、ぐったりシートに脱力して凭れていると―――視界の向こうで、電車のドアがゆっくり開いていく様子が見えた。

「残念」

クスリと聞こえる笑い声。

「―――着いたよ、相棒、八十稲羽だ」

伸びてきた両手が、朋也の体を優しく抱き上げてくれた。