朝になっても朋也の熱は下がらず、苦しそうな姿を見かねて『今日はリーダー抜きで探索!』と、仲間たちにメールを一斉送信した。
陽介の勝手な判断に朋也は怒ったけれど、今日一日くらいは安静にしていて欲しいと頼み込んで、どうにか納得させることが出来た。
それでもまだ、若干ふてくされて卵かけご飯を食べる姿に、陽介は苦笑いを浮かべる。
「なあ、朋也、機嫌直してくれよ」
朋也は答えずに、食事を済ませて、ごちそうさまと箸を置いた。
「お土産買ってくるからさ、何がいい?」
「遊びに行くんじゃないだろ」
「うぐ、いや、勿論そうだよ?お前が戻れるように、あのシャドウ全力で探してきてやるよ、見つけたら速攻連絡入れる」
「あっちじゃ携帯通じないのにか?」
「い、いや、速攻ジュネス戻ってさ」
「その間に逃げられたら?」
「うっ」
「そもそも、俺がいなくて現れるのか、アイツ」
「それは」
「俺がこんな風になったのは奴のせいなんだから、俺がいないと現れないんじゃないか?」
「でも何か見つかるかもしんねえだろ?とにかく!今日は一日安静!そんなじゃやれるもんもやれねえだろうが」
確かに、と呟いた朋也の顔は青い。
悔しそうな表情が更に痛ましげに映る。
伸ばした指先でそっと髪に触れると、朋也は困ったような目を陽介に向けた。
「ごめんな」
「は?」
「俺のために、怪我なんてしないでくれよ」
陽介は思わずハハッと笑う。
「もう二度とあんな無茶しねぇよ、約束する、ちゃんと元気に帰ってくるから」
「うん」
「だからさ、戻ってきて、元気になってたら、エッチしようよ、な?」
途端朋也の双眸が据わった。
「あ?」
「―――い、いや、えーと、その」
半分冗談です。
朋也は深々と溜息を漏らして、食器を流しに置くと、陽介を振り返って「寝る」とだけ告げて、二階に上がってしまった。
残された陽介はカリカリと頭を掻き、流石にちょっと不謹慎だったなあと、朋也が出て行った扉を見詰めながらぼやいた。
「でも、エッチはしたい、だから頑張ろう、うん」
本音は一日付っきりで看病してやりたいけれど。
(そういう訳にも行かないよな、朋也のためだ)
性別の問題がどうなったとしても、肝心の朋也の具合が悪いままでは、流石に性交渉には及べない。
二人きりだとどうしても色々触りたくなってしまうから、ここは涙を飲んで我慢と、自分の使った食器と併せて片付けようと立ち上がった、陽介の鼻先に、昨日の花の香りがまたフワフワと漂っていた。
「これ、いい匂いだけど、昨日から何なんだろうなあ」
近くの家で何かの花でも咲いたのだろうか。
(けど、昨日は部屋の窓開けてなかったし、それ以前に花があんなに強く匂うもんなのか?)
ただいい香りがするだけなら、特に害はないだろう。
流しに食器を置いて、手に取ったスポンジに洗剤を滲み込ませながら、陽介は思考を今日の探索方針に切り替えた。
「じゃあ、行ってくる」
陽介を見送った後の家は静かだ。
携帯には仲間たちから体調を気遣うメールが大量に届けられていた。
渡された解熱剤を飲んで、フラフラと陽介の部屋に戻った朋也は、ベッドにパフンと倒れこんでいた。
(申し訳ないな)
探索が一段落着いたら、見舞いに押しかけてくるつもりらしい。
今の姿はあまり見られたくないように思う。
(こんなのは、いつもの俺じゃない)
訳も分からず女になって、陽介の家に連れ込まれてからは、戻る方法も見つからないまま性的なことにばかりかまけて、女物の下着や服を身につけて外出までして、一体何を考えているのか。
(俺って案外変態だったのかな)
そんなことはないと思う。
希望込みで、違うと言い切らせて欲しい。
仰向けになってそっと触れた胸の辺りは柔らかく膨らんでいて、そこからゆっくり腹に至り、股間に触れると布越しに滑らかな丘の様な感触だけが指先に伝わってくる。
女だ。
女の体だ。
(男には、見えないよな)
陽介の熱っぽい瞳の意味を改めて実感したように思う。
男の時の面影は、体に関して言えば、残っているのは握力だけだ。
顔は元より女顔だったから、今では問題なくしっくり組み合わさってしまっている。
長い睫に、色白の肌、銀の髪と、薄紅色の唇、豊かな乳房、折れそうなほど細い手足、華奢な腰周りと、滑らかな恥丘。
「女ッて、一度知ったら、忘れられなくなる」
自分も随分早くに年上の女性から性の手ほどきを受けたから分かる。
吸い付くように瑞々しい感触や、丸みを帯びたラインは、男とは一生無縁のものだからこそ強く心惹かれて、もっともっとと欲しくなる。
本能的に母親の面影を求めているらしいが、足りないものを補うための人生だろう、それなら、肉体的に足りない部分を求め合ってしまうのは、男女の性に違いない。
そして陽介も女になった朋也をいつも以上に激しく求めて、朋也も、かつてない領域を垣間見てしまった。
一日も早く元の姿に戻りたいと思う。
堂島も菜々子も心配しているだろう、いつまでもこのままではいけないと判っている、けれど。
―――花の香りがした。
陽介の面影が脳裏にちらついて、気付けばシャツ越しに掌で胸の感触を確かめていた。
「はあッ、ん、あぁ」
今の格好は、陽介が貸してくれたTシャツとショーツ一枚。
柔らかなふくらみを緩やかに揉んで、先端を指先でしこれば、甘い声が鼻から抜けていく。
「んあ、あ、はぁ、はぁ」
(俺は何してるんだ)
カーテン越しに朝の光が差し込む陽介の部屋のベッドの上で、仰向けに寝転んで、天井を眺めながら。
「はぁっ、あ、ああっ」
乳房の柔らかさが掌越しに伝わってくる。
隆起した先端をクニクニと嬲り、たまらなくなって、シャツの中に手を突っ込むと、少し強く握り締めた。
「ああっ」
ビクンと腰が跳ねる。
花の香りがしている。
片方の手をそろそろと腹に這わせて、へそから下にゆっくりと差し込めば、そこは既に潤っていた。
「んんっ」
ショーツ越しではもどかしくて、直に指で触れる。
「んっ、んっ、んっ」
第二間接まで沈めてクチュクチュとかき混ぜれば、蜜がとろりと零れて落ちた。
「んはっ、あ、あっ」
たまらなくて横向きに体を倒して、腕を両足で挟みこむようにしながら指を2本に足して花弁を慰める間、乳房を揉みながら、頬が擦れたシーツから仄かに陽介の匂いを感じて声が漏れる。
甘ったるい女の鳴き声。
陽介、陽介と、鼻先をうずめて、確かめるように何度も匂いを嗅ぐ。
明るい笑顔、優しい声、普段は意気地が無いくせに、いざとなると誰よりも頼りになる、この場所で見つけたただ一人の相棒。
「ようすけぇっ」
好きだという思いが込み上げてくる。
こんなにも好きで、好きで、堪らない。
乱暴に花弁の奥を掻き混ぜて、指を出し入れするたび、グチュグチュと飛沫が散って朋也の腿やシーツを濡らす。
荒い呼吸に併せて乳房を揉んで、先端を指先で擦り、震える体の奥からあふれ出す熱を持て余してどうにもならなくなった瞬間―――プルルッと電子音が鳴った。
咄嗟にビクンと震えて、ハッと目を見開いた先、光に照らし出された部屋の風景が映る。
密壷から指を引き抜いて、ゆっくり起き上がると、机の上に置いた朋也の携帯が着信を告げていた。
(誰?)
ベッドから降りて、おぼつかない両足でフラフラと近付き、汚れていない方の手で携帯電話を取ると、着信元を確認して思わず下腹を押さえていた。
「陽介」
僅かにためらってから、通話ボタンを押す。
間を置いて通話口から「朋也?」と聞えてきた。
「悪い、寝てたか」
「ん、平気」
「そっか、少し声、暗いな?」
「そんなことない」
蜜を滴らせた部分が、陽介の声に反応してキュンキュンと疼いている。
今すぐ欲しいとねだる体に僅かに絶望した。
こんなにも―――こんなにも自分は、女の体に順応し始めているのか。
(多分そういう事じゃない、これはきっと)
「朋也?」
黙り込んでいたら心配かけてしまったようで、朋也は慌てて「大丈夫」と答えた。
「そっか、ちゃんと寝てろよ、果物とか色々買って帰るからさ」
「それなら、アイスが食べたいな、ホームランバーじゃないヤツ」
「なかなかレベルの高いおねだりだぞ、ソレ、けどまあわかったよ、ジュネスから持って帰るからカップのとかになると思うけど」
「バナナ味」
「はいよ、他には?」
「ない」
「わかった、これからさ、テレビん中行ってくるから、何かあったらすぐ連絡する」
「陽介」
「ん?」
朋也は、少しためらってから、皆に見舞いに来て欲しくないと小声で告げた。
「俺の、こんな姿見たら、きっと不安になると思うから、悪いけど、でも」
「うん、了解、言っとくよ」
「心配させないように伝えてもらえる?」
「当たり前だっつうの、ちゃんと分かってるから、お前こそ心配しないで寝てろ、なるべく早く帰るよ」
「うん」
「よし、じゃあ、また後でな、いい子にしてるんだぞ?」
「バカ」
終話ボタンを押して、折りたたんだ携帯電話を机の上に置いた。
ふらりとベッドに戻って、ポスンと腰掛ける。
「陽介」
寝そべると、またシーツの匂いを嗅いだ。
「陽介」
枕からも同じ匂いがする。
「陽介っ」
部屋中に充満している花の香り、息が詰まりそうなほど濃くて、喘ぐようにしながら、再びショーツの中に手を差し込んで、昂り震える花弁の奥をグチュグチュとかき混ぜる。
「はあッ、あっ、あっ、あっ、はああんっ」
―――こんな姿を見られたら。
(変態だって思われる)
けど。
(こんな姿を見せつけたら)
―――少しは、反省するだろうか。
ギュッと目を閉じて快楽の扉をこじ開けようとしている朋也の耳元で、聞き覚えのある女の声がクスクスと笑った。
「えっ」
咄嗟に目を開く。
奥まで突っ込んだ指の隙間からくちゅ、と水音が漏れた。
腫れあがった乳首を嬲る手を止めて、蜜壷から指を引き抜き、そろそろと周囲を確認してみても誰もいない。
陽介の両親は共に明後日まで外出予定で、陽介からはついさっき仲間たちと探索に向かう連絡を受けたばかりだから、当然だろう。
陽介を見送った後でちゃんと玄関に錠を下ろしたし、他に今朝はどこも開かなかった。
自分以外に人のいるわけがない。
何だったんだろうとベッドに寝そべって、目を閉じながら疼く秘所に再び触れようとすると、女の笑い声が聞こえた。
(誰だ?)
ギクリと肩を震わせる。
聞き覚えのある声だけれど、誰のものなのか思い出せない。
ズクズクと熱を帯びた花園を慰めたくて、焦れる意識が徐々にぼやけていく。
周囲に満ちる花の香り。
手が別の生き物のように肌を這い、乱暴に蜜壷の中に指を付き込む。
「んあっ」
グチュグチュと出し入れをしながら、もう片方の手で再び乳房をまさぐっていると、それは自分がしている事ではないように思えてくる。
誰かが朋也の体を愛撫して、欲しい部分に欲しい刺激を与えてくれる。
アン、アンと甘い声で応えて、もっととねだると、ねだっただけ返ってくる。
(何だこれ)
スウと吸い込むと、鼻腔に陽介の香りと共に、花の香りが入り込んできた。
(何だ?)
指三本を奥深く付き込んでパンパンと蜜園を穿ちながら、ぽってりとした乳首を指先で擦り、乳房を揉むたび背筋にゾワゾワと快楽が這い回る。
荒い呼吸の合間に溢れた唾を飲み込んで、一際強く、指を根元まで押し込みながら、痛いほどに乳房を握り締めた瞬間、腰がビクビクと跳ねて、頭の奥が真っ白に染まった。
「んああああっ」
そのままクッタリとベッドに横たわった朋也は、小さく溜息を漏らしながら、グチュグチュに濡れてしまった指を引き抜いて、ペロリと舐めた。
「変な味」
そろそろと目を開くと明るい屋内にまた吐息が漏れた。
花の香りがする。
(おかしくなりそうだ)
陽介の気配がする、陽介の部屋。
(このまま)
シーツを握り締めて、枕に顔を押し付ければ、嗅ぎなれた愛しい香りが再び鼻腔を満たした。