それは、直視に耐えかねる惨状だった。

実際最初は、何が映っているのか、目でも、脳でも、理解できなかった。

居間に置かれた薄型液晶テレビ。

突然パチンと砂嵐が消えて、入れ替わりに色鮮やかな映像が画面いっぱいに映し出される。

 

まず見えたのが、赤だった。

どろりとした赤、ネットリと、絡みつくように、淀んだ赤、濁った赤。

人の体内を思わせるような風景の中央で、そこだけ仄白く発光するような姿が悶えている。

―――零れ落ちた銀の髪に、陽介の鼓動が一瞬で爆ぜた。

苦しげに歪んだ表情、頬を濡らす大粒の涙。

嗚咽とも喘ぎ声とも突かない声を垂れ流す唇は不気味な異形に塞がれて、白い裸体を拘束する数多の肉色の蔦に、抗いもせず揺さぶられている。

いや、抗えないのだろう。

理解すると同時に、少女の唇からズルリと異物が引き抜かれて、涙交じりの声がテレビのスピーカを震わせた。

「よう、すけぇ」

陽介はテレビの前で凍りつく。

頭のどこかで、これは嘘だ、性質の悪い冗談だと、繰り返し叫ぶ声が響いていた。

「たすけてっ」

小さな声は再び口腔内に突き込まれた異物によって遮られる。

そしてまた苦しげな音を孕んだ吐息がスピーカーから流れ始めた。

「なん、だよ―――コレ」

まるで自分のものではないような声が、喉と唇を震わせる。

「何なんだよ!オイ!」

自宅の居間のテレビの前で、陽介は混乱と絶望感に駆られながら絶叫していた。

 

―――気付くと、朋也は真っ暗な空間に佇んでいた。

裸の自分に驚いて、慌てて恥部を隠そうとした両手を不意に絡め取られる。

闇の中から伸びてきた蔦の様な物体は何らかの意志を持って蠢き、抗う間もなく朋也の自由を奪った。

「やめろ!」

咄嗟に叫んだ声の、頼りなげな女声の音に動揺した朋也を嘲笑うかのような笑い声が辺りに響く。

その声に覚えがあって、朋也は僅かに息を呑んだ。

いや、声だけでなく気配も知っている、しかし具体的に何であったか、誰であったか、 判らない。

「誰だ」

闇に呟いた朋也の声を受けたように、するり、と、白く細いものが浮かび上がった。

それは腕だ。

女の腕。

次いで、肩が、胸が、腹が、足が、闇の中から抜け出るように現れる。

しかし首から上は闇に呑まれたまま、声だけ響かせて、女の体はゆっくり近付いてきた。

『バカね』

脳内に直接、ざらついた音声が語りかけてくる。

『せっかく女になれたんだから、素直に委ねてしまえばいいのに』

「何」

『分かっているんでしょう?』

スッと持ち上がった指先が朋也の喉をなぞり、顎を摘む。

その手の親指の腹を唇に押し付けて、横へぬるりと滑らせた。

『花村陽介は、アナタの変化を喜んでいる』

女の一言が、朋也の胸に突き刺さる。

認めたくなかった、けれど、この数日の間にイヤと言うほど思い知らされた。

女の体でしか味わえない性の悦びと共に、深く刻み込まれてしまった。

朋也の想いを見透かしたように、女がまたコロコロと笑い声を立てる。

『呆れたお調子者よね、下着やら服やら、果ては水着まで用意して、すっかり恋人気分じゃない』

闇に覆われた女の顔のある辺りを朋也が睨みつけると、顎の手が喉にかけられた。

『フフ、でも仕方ないわ、だって、アナタは今、オンナなんですもの、ねえ?その体になって何度陽介と寝た?彼は以前よりアナタを熱烈に愛してくれたんじゃない?求めてくれたんじゃないの?そして、アナタもまた―――』

女のもう一方の手が、ゆるりと朋也の乳房をまさぐる。

『女の快楽に、溺れていたでしょう?』

指先でコリコリと乳首をしこり、耳元に囁かれた。

『男と女、それが摂理、同性間の性交なんて異常だわ、なにより、本当に気持ちいいのかしら?』

手は、まるで朋也の性感帯を熟知しているかのように蠢き、朋也が体の芯に起こりかけた熱を拒むように身を捩らせると、笑い声と共に喉にかかっていた手がするすると肌を伝い滑り降りていく。

鎖骨、乳房、腹を伝い、吸い寄せられるように股の間へ差し込まれる。

そして探り当てた水源をクチュクチュと嬲るので、朋也は身動きが取れないまま、より強く女を睨みつけた。

『同性じゃ、幾ら頑張ったところで本物の恋人同士になんてなれっこないわ、男は女を求めるもの、以前のアナタと陽介じゃ、溝は永遠に埋まらない、心が近付くこともナイ』

「―――何の話だ」

『フフ、強がりはおよしなさい』

胸から離した手を無い口元に添えるような仕草と共に軽く上体を反らせて、再び、今度は愛撫するのではなく、朋也の豊満な乳房を上から潰すように掌が当てられる。

『アナタは、理解しているじゃない、だからこそ絶望したのでしょう?』

ここに、と、更に力を込められて、朋也は痛みに鈍い呻き声を漏らす。

『深く傷を負った、アナタは恨んだ、変え様の無い現実を嘆いた、突きつけられた残酷な言葉を拒否した―――本当に酷い話よね、アナタは何も悪くないのに、ただ愚かなだけ、目が眩んでしまっただけ―――幻に、心奪われてしまっただけなのにねえ』

「や、めろ」

『哀しくて、辛くて辛くて、だから逃げてきたのよね―――ここに』

「やめろ!」

朋也が叫ぶと同時に離れた両手が、ゆっくり広げられていく。

『もう、いいのよ』

その腕に、不意にスルリと朱が走った。

まるで水が伝うように、流れ落ちた赤が着物の袂に変わり、端に長い飾り紐がシャラリと垂れ下がる。

『アナタの望みは、全て叶うわ』

女の胸元を包むように、幾重にも襟が重なっていく。

腰に豪奢な帯が巻きつき、最後に上掛けがフワリと現れて、十二単を纏った女は闇の中から白い仮面を抜き出す。

『アナタが欲しかったもの、望んだ言葉、全てワタシが与えてあげる、アナタはただ委ねればいい、瑣末な意志や感情は捨ててしまえばいいわ、ミンナ我侭に生きているんだもの、アナタだって、好きにしていいの』

仮面に隈取の様な朱の文様が浮かび上がり、その仮面を女が顔のある辺りに翳すと、奥に髪の長い頭部が現れる。

しかし仮面に覆われた素顔を伺い知ることはできない。

ただ、闇の中で淡く光る銀色の髪がやけに目を惹いた。

女はフワリと腕を振る。

『可哀想な、ワタシ』

周囲にポッと狐火が灯った。

『けれど、陽介は、きっと前より愛してくれる』

次々と現れる炎が闇を払い、やがて、風景は一新される。

丹色の柱に漆喰の壁、ロウソクを何本も連ねた燭台、金銀で細工を凝らされた継ぎ目の金属や蝶番。

御殿の様な空間で、朋也は自らを戒めているものの正体を漸く目の当りにした。

肉色の蔦、そう形容するのが最も適当と思しき、気味の悪い物体。

滑る表面のあちこちに筋が浮かび、時折ビクビクと痙攣を繰り返す、蔦の先端は男性器に酷似していた。

朋也の両腕両足、そして腰の辺りをがっちり締め付けて、肌の上をジワリとにじり続けている。

咄嗟に、軽い目眩と共に現実がおぼつかなくなった朋也を見て、女が嘲るような笑い声を立てた。

『現は夢、夢こそ真、ここはアナタの願いが産んだ真夜中の離宮、さあ、委ねなさい、アナタの望む愛のため、アナタが欲する願いのため、全て捨てて貪欲に欲すればいい、そして、アナタは生まれ変わる』

十二単の袂が、まるで蝶が羽根を広げるが如く、大きく開かれた。

『―――叶えましょう!』

ずるり。

朋也を戒めている蔦が一斉に蠢く。

その瞬間、不穏な予感が背筋を粟立たせた。

腕の蔦が胸へ、足の蔦が内腿を伝い、股間へと伸びていく。

男根に似た先端で密壷をクチュクチュと嬲られて、同時に、乳房に巻きついた蔦が先端のぬめりを擦り込む様に頭部を上下させる、そして、更に伸びてきた蔦が、朋也の首に巻きついて髪の中へ、内腿をなぞるようにズルズル動く。

朋也は体中から押し寄せてきた刺激にビクリと震えながら、小さく喉を鳴らした。

「や、めろ、なんだ、これっ」

ウフフ―――女が笑う。

「なんのつもりだ、お前、一体」

『分からないの?』

開いた唇を割るように、蔦の一本が口腔内に突き込まれた。

咄嗟にグッと呻いて顔を背けようとしたが、髪の中を蠢く蔦がそれを許さない。

口の中に苦い味がジワリと広がり、蔦は、まるで口腔を犯すようにジュポジュポと動き始めた。

そして朋也は股間で滑る感触が増えていることに気付く。

一方は菊座を、一方は既に湿り気を帯びだした女陰をまさぐり、にちゃにちゃといやらしい音を立てていた。

「んっ、んむ!んうー!」

もがく朋也を嘲るように、蔦は、甘くしなやかに体中に絡みつき、愛撫を繰り返す。

正面に立った女が仮面の向こうでクツクツと笑い声を零し続けていた。

『楽しそうじゃない、私まで火照ってきちゃいそう』

女は自身の股間に指を這わせるような仕草をする。

『沢山気持ちよくしてもらうといいわ、女の体の喜びを、あなたの魂に刻み込んであげる』

蔦が、乳房をスルスルと擦る。

何本かで柔肉を揉みしだき、汁を滲ませた先端を乳首にゴリゴリと擦り付けてくる。

ふるんと弾かれた乳首に、再び別の蔦が先端を擦り付けて、その間も乳房は様々に形を変え、寄せられた肉の間を蔦の一本が繰り返し行き来し続けている。

思い切って口腔内の蔦に歯を立ててみたけれど、蔦の表面は思いのほか硬く、傷をつけられなかったどころか、蔦の動きはより容赦がなくなり、喉の奥まで入り込んできた先端の感触で朋也はえづき、目尻に涙を滲ませる。

『あらあら、ダメよ、痛くしちゃ』

十二単から伸びる白い腕が、蔦の一本を愛しげに撫でた。

『噛むなよ、って、言われなかった?とてもデリケートなのだから、大事にしてあげないと、ね』

腿を這う蔦の先端が膝裏に頭を擦り付けている。

もう一方は腿に巻きつき、そのまま、朋也の細い腰に巻きついて、更に伸ばした先端を、乳房を嬲る蔦に締め上げられている腕の、脇の下にこすり付けていた。

グリグリと押し付けられるたび肌の間でヌチャヌチャと音が立って、耳の奥で反響している。

朋也はギュッと目を閉じ、自由にならない体で必死にもがき続けた。

しかし全ての抵抗を嘲笑うように、蔦は朋也を蹂躙し続ける。

股間を嬲っていた蔦の一本が、しとどに濡れたその奥へ、侵入を試み始めた。

ハッと双眸を見開き、朋也は塞がれたままの唇から声にならない叫びを上げる。

しかし、蔦は滑る先端をクチュクチュとひだの合間に滑らせて、何度か、くぷ、くぷと、孔を穿ち、そしてぐぷぷっと押し入ってきた。

朋也は背を仰け反らせる。

同時に、臀部を嬲り続けていた蔦の先端も、解した菊座からの進入を試み始めた。

悶える朋也を更に数本の蔦が縛り付ける。

宙に浮かんだ体の、両足を大きく開かれて、蔦は無情に朋也の秘孔を割り、奥へと入り込んできた。

『いい眺めねえ』

女の笑い声がする。

蔦の先端が、乳房を擦り、脇や腹、腿を嬲り、そして、股の間を穿つ二本が抽挿を繰り返す。

ぐぽぐぽと奥から掻き出す音と共に、ジュッポジュッポと濡れた水音が飛沫を散らせて朋也を苛む。

天に向かって伸ばされたしなやかな両足には肉色の濡れた蔦が絡みつき、それらの光景を眼下に眺めながら、口腔を蔦に犯される朋也の双眸を涙が伝い落ちた。

―――いやだ。

こんなのは、いやだ。

口の中一杯に苦味が広がる。

ゴボリ、蔦から吐き出された何かが直接喉へと流し込まれた。

それは陽介の味に少し似ていた。

(いやだ)

涙が零れる。

火照った肌の上で、蔦は何度も白濁とした液を吐き出し、乳房を、腹を、汚される。

そして朋也の奥を穿っていた蔦からも、熱い迸りが吐き出されていた。

秘肉をズルスルと擦り上げ、内側の襞を蕩かし、膣内一杯に満ちている蔦の表面がビクビクと痙攣を繰り返すたび、へそ下の内側深くを満たしていく感覚に目の前が暗く染まる。

更に、後ろを嬲っていた蔦からも直腸へ熱を吐かれて、朋也の目後に新たな雫が伝い落ちていった。

『―――あらあら』

女の呟く声がする。

『これは―――いけないわね、これではお気に召さなかったのかしら、快楽を知るだけでは満たされないのね?』

それでは趣向を変えましょうか。

甘い匂いが鼻腔に香った。

震える睫をゆっくり押し上げ、濡れた瞳を見開いた朋也の口から、ズルリと蔦が抜ける。

同時にゴボリと零れ落ちた白い液が朋也の喉を伝った。

脱力している朋也を下に横たえると、四肢から蔦が離れていく。

最後に、体内から蔦がズルリと抜き出されると、ぽっかり開いた女陰と菊座から溢れ出した液が股の間に溜った。

『随分苦しかったみたいね、これじゃあ、気持ち良くはなれないわね』

仮面の女が見下ろしている。

『フフ、虐めるつもりは無かったの、でも、大人しくなってくれたし、結果的には良かったのかしら?』

気力を振り絞るように睨み返した朋也の視線を受けて、女はまたクツクツと笑い声を漏らした。

『それなら、これはどうかしら?』

ぞわり。

周囲の気配が蠢く。

そして―――視界に現れた姿に、朋也の思考は黒く塗りつぶされた。

 

 

触手…難しいどころの騒ぎじゃなかった…「ひぎい」とか言わせてみたかった…