玄関に飛び込み、ドアが閉まると同時に傘を放り出した陽介が両手を膝につきながら大仰な溜息を漏らしていた。
「やっと家だわ」
傍らでシャツの前を両手で握り締めた朋也も同じく息を吐く。
ジュネスを出て、陽介の家に辿り着くまでの間、まるで何かの容疑者のようにコソコソと人目を避け、仲間達に庇われつつ―――家の前までは完二も付き添ってくれた。
ジュネスから出ると、辺りは既に暗く、相変わらず雨も降っていたため、少女たちには危ないからと先に帰ってもらったのだった。
陽介宅前で完二も「自分はこれで」と言い残し、濡れるのも構わず足早に去っていった。
結局朋也には指1本触れようとしなかった、別の意味で前屈みになっていたのだろう、暗闇に遠ざかっていった後姿が悪い意味で忘れられない。
その後2人は家の中に飛び込み、大急ぎで鍵をかけて、そして―――漸くひと心地ついて見渡してみれば、案の定、屋内は薄暗い闇と静寂に包まれていた。
「―――昨日もちょっとだけ話したけどさ」
パチンと音がして、玄関の明かりを灯した陽介と目が合う。
「うち、親父と母さん、暫く留守だから、気とか遣わないでよ」
スッと目を背ける朋也を暫く見詰めて、靴を脱いだ陽介は家に上がっていく。
「ただいまー」
次いで朋也も上がらせてもらった。
度々訪れた事のある、それこそ、勝手知ったる他人の家、だ。
台所の照明を点けて冷蔵庫を漁っている陽介を横目に見ながら、居間のソファに腰を下ろした。
テレビのスイッチを勝手に入れさせてもらって、何となく落ち着かない雰囲気を少しでも払拭しようと試みる。
「黒沢、なんか飲む?」
「何があるの?」
「炭酸と麦茶、あとアイスコーヒー」
「麦茶」
「了解」
カチャカチャとグラスの触れ合う音を聞きながら、朋也は他愛ないバラエティー番組をぼんやり眺めていた。
外では雨がサアサアと降り続いている。
―――これからどうすればいいんだろう。
(家に電話を入れておかないと)
元の姿に戻るまでどのくらい期間がかかるのかわからないが、戻らない限り堂島家には戻れないだろう。
しかし長期の不在はきっと叔父が納得しない。
どうすれば元に戻るのか、そもそも、戻ること自体可能なのか。
(判らない)
あらゆる全てがぐらついたまま、不安だけが膨れ上がっていく。
焦りそうな気持ちをどうにか宥めつつ、とにかく、今日は早く寝て、明日からは一刻も早く元に戻る方法を模索しようと決めた。
そのために助力を惜しまないつもりでいてくれる、頼もしい仲間達も一緒だ。
(俺は1人じゃない、大丈夫、きっと何とかなる)
申し訳なさ半分、嬉しさ半分で、キュッと手を握り締めた朋也の前に、グラスに注がれた麦茶が出された。
「はい、どーぞ」
陽介が隣に腰を下ろす。
近すぎる体温に僅かに体を強張らせた朋也に気付いて、陽介は苦笑いを浮かべながら顔を覗き込んできた。
「何だよ、俺ってそんなに信用無い?―――っていうか、今更じゃね?」
指先が朋也の髪を梳る。
「昨日もお前んチでしたし、おとついだってした、その前も、前の前も、俺達散々してるだろ?」
楽しげな言い回しに少しだけ腹が立った。
仲間内の誰にも秘密にしている事―――朋也と陽介は既に複数回体の関係を持っている。
女性との性経験しか持たなかった自分が、同い年の男に絆されて、うっかり許してしまったのが先月。
以来病み付きにでもなったのか、事ある毎に欲情してガッツいてくる相棒に、朋也は足を開き続けている。
だからこそ来たくなかったんだと心の中で毒づいた。
―――昨日のこと、多分、陽介にとっては他愛ない一言。
澱のように蟠るその言葉が頭の隅から消えてくれない。
固い表情の朋也に、擦り寄ってきた陽介が不意に不安な声で「なあ」と呼びかけてきた。
「今日ちょっと冷たくない?さっきだって逃げるし、俺何かした?」
「別に」
「ならこっち向いてよ、お前の顔ちゃんと見たい」
背中に腕が回される。
「ねえ」
抱き寄せられて、髪越しの耳元に陽介の唇が触れた。
「朋也」
半ば観念しながら振り返ると、そのまま深く口付けされる。
口腔内で舌を玩ばれて、溺れかける朋也の胸元を掌がスルリと撫でた。
「うおッ」
突然身を引いて、陽介は、あからさまに衝撃を受けた眼差しで今自分が触れた朋也の体の箇所をまじまじと見詰めなおした。
ゴクリと喉を上下させながら、そろそろと指を伸ばし、胸の先端をくにゅ、と押す。
「―――すげえな、これ、ホントにお前のなんだよな?」
今度は掌全体を使って確認するように触り始めた。
加減のわかっていない乱暴な指使いに、朋也は痛いと顔を顰めて陽介を睨み付ける。
「あんまり強く触るな」
「わッ、ご、ゴメ―――っていうか、これはちょっと」
初め恐る恐るだった陽介の手が、胸への愛撫に夢中になり始めている。
「なんつーか、俺、ヤバイかも―――」
それは、朋也にも判る。
かつて初めて関係を持った女性の胸を許された時、暖かく柔らかな乳房の感触は幼い理性を吹き飛ばすに十分過ぎるほどのインパクトがあった。
まして、陽介の初体験は先月のあの時であったらしい。
女相手には童貞の男が生まれて初めて触れる生の女体、しかもそれは普段から愛を囁いて止まない相手で―――
(冗談じゃない)
朋也は目を瞑っていた。
陽介のお初を二度も押し付けられるなんてまっぴらだ。
改めて溜息を漏らすと、それを感じて漏れたものだと勘違いしたらしい陽介から熱烈な口付けを施されてしまった。
ゆっくり体重をかけながら胸元をまさぐられる感触に、朋也は閉じた瞼にぎゅっと力を込める。
―――女の性感は、男の何倍と言っていたっけ?
今までとは比較にならない快楽が下腹辺りからゾクゾクと上ってきて、すでに股間が熱い。
朋也は身をよじりながら、どうにか陽介を拒もうと試みた。
しかし陽介は朋也の動きを上手にいなし、受け流しながら、決して逃がしてくれようとしない。
気付くとシャツの内側に入り込んだ手が乳房に直接触れている。
乳首を弄られる感触に、朋也の腰がビクビクと跳ねた。
ソファの座面に背中を押し付けられて、陽介がすっかり体の上に乗り上げているというのに、普段と違ってまるで重みを感じない、口の中に入り込んだ舌先が上あごや下あごを嘗め回すものだから、流れ込んできた唾液をしこたま飲ませられてしまった。
そのうち、ふと朋也の口腔から舌を引き抜くと、顔を上げた陽介が至近距離からウットリした表情で見詰めてきた。
「朋也、何か今日スゲーよ」
「―――何が」
「なんつーか、俺やっぱ女の子好きだわ、勿論お前が一番だけど、女の子になった朋也ってハンパない」
「どういう意味?」
「スッゲー気持ちいい」
好き、と囁いてキスをする。
たったそれだけの稚拙な行為に朋也の内側が大きく震える。
結局は自分も陽介が好きなのだと思い知らされる瞬間だ。
繰り返すキスに紛れて、シャツの裾が少しずつ持ち上げられていった。
ついに露にされた胸元に、陽介は歓喜の表情を浮かべて瞳を細くすると、待ちかねた様子でしゃぶりついてきた。
乳首を吸い上げられるたび、朋也の体はいちいち大げさに反応してしまう。
「アッ、はあ、ん!」
つい漏れた声がとんでもなく甘ったるくて、朋也は自分の耳を疑っていた。
(お、俺の声なのか?今の―――)
「ともやぁ」
乳房と、首元に、繰り返しついばむようなキスを施されながら、下腹辺りをスルスルと撫でる手の感触に気付く。
それは流石にまだ無理だと、慌てて陽介の下から抜け出そうとした朋也の股の間に、逃さないとでも言わんばかりの素早さでスルリと指が滑り込んできた。
「んあッ」
思わずビクリと体を震わせた朋也は、影になっている陽介の瞳をまじまじと見詰め返す。
言外に止めろと伝えたつもりだったのだが―――陽介は、ニコリと微笑んで、朋也の頬にキスをした。
「朋也」
下着越しに股間の割れ目をスルスルとなぞられる。
「本当に女の子になっちゃってるのな、ココ、なーんもない」
「バッ、や、やめッ」
「いつもだったらビンビンに張り詰めて先っちょヌルヌルになったアレがあんのに、今日はツルツルでムニムニしてる、なあ朋也、ここってなーに?」
―――瞼にキスをされて、朋也は総毛立っていた。
まさかそれを俺にこたえさせるつもりじゃないだろうな?
(最悪だ、こいつ)
ギリリと陽介を睨み付けながら、懸命の想いで毒づく。
「知るかッ」
「ええー?自分の体だろー?」
くにゅ。
異物の入り込む感触は、朋也の意識の何かを崩壊させた。
「はッ」
花村ッ、と呼びかける声も空しく、骨ばった指の根元まで柔らかな陰部に突っ込まれてしまった。
朋也は小さく悲鳴を上げて、陽介のシャツを握り締めながら、必死でイヤイヤと首を振る。
それを眺める陽介は蕩けた表情で、朋也に甘いキスを繰り返してきた。
「可愛い、朋也」
ちゅ、と耳朶に吸い付かれる。
「女の子のここって、こんな感じになってるんだ」
「やッ、嫌だぁッ、やめろッ」
陽介の指は女陰の感触を確かめるように出たり入ったりを繰り返している。
「へえ、ホントにヒダがある、じゃあクリ○リスってここら辺?」
「ひあ!?」
ビクリと震えた朋也を見て、陽介は「ビンゴ」と微笑んでいた。
「すげーな、ちょっと触っただけでこんなにヌルヌル―――なあ、朋也?」
「な、何?」
「オ○ンコの中って、やっぱ感じる?」
―――この、バカ!
残された理性を総動員させてありったけの目力で睨み付けたつもりだったが、返されたのは優しい笑みと口付けだった。
「そんなに怒るなよ、いいだろ、別に」
「よく、ないッ」
「よしよし、じゃあそろそろ、俺も我慢の限界だから」
ちゅぽ、と指が引き抜かれた。
火照った体を持て余しながら、漸くひと心地ついた思いで荒い呼吸を繰り返す朋也の上で、陽介は何かごそごそと弄っていた。
前触れなく、いきなり朋也はズボンを引き摺り下ろされる。
すっかりサイズ違いになっていた衣服は面白いくらいあっけなく脱げてしまった、朋也の視界に股間に大きな染みを作ったボクサーパンツが飛び込んできて、そこにあったはずの膨らみが消滅している様子を見て取ると、改めて、今の自分が男でない事実を思い知らされた。
(胸がでかくなった事より、こっちのほうがかなりショックだ)
赤い乳首をピンと立たせた豊満な双乳、その向こう側に見える、平らかな丘。
ボクサーパンツの股にあたる部分の布を陽介の指がクイッと除ける。
恥毛に覆われた陰部がちらりと見えた。
そして朋也は瞠目する。
陽介が片手に持っている、見知った赤黒い物体。
「ちょ、ちょっと」
待て、と言おうと思った。
朋也の陰部を見た途端、陽介の目付きが変わり、喉がゴクリと上下していた。
制止を耳に入れることなく、張り詰めた亀頭が襞を押しのけ内側にグッと入り込んでくる。
ビクリと体を震わせて、今度は朋也が息を呑むと、男根はそのままズブズブと蜜を滴らせた陰部に侵入を始めた。
「う、あ、あ!」
やめてくれ、と伸ばした腕を絡め取られる。
口を塞がれるようにキスされて、その合間も入り込んでくる熱量に、どうにかなってしまいそうだ。
朋也、と囁く声が聞こえる。
「ごめん、でも、俺もう限界―――ホントごめん、ごめんな、朋也」
「あ、は、花村ぁ」
「最中は名前で呼んでって、いつも言ってるだろ?」
時折苦しげな息を吐き出しながら目的を達しようとする陽介と対照的に、朋也は馴染みの容積であっても桁違いの快楽に悲鳴を上げて、全身をビクビクと痙攣させる。
しかし熟れて解れた肉の襞は雄の暴挙を拒むことなく受け入れていく。
やがて陽介の腰骨が股間にズンとあたり、怒張していた逸物は全て納められてしまったのだと知った。
軽い目眩を覚えつつ、朋也が、必死に意識だけは手放さないようにと堪えていると、前髪に熱っぽい吐息が吹きかかってきた。
涙の浮かぶ目尻を拭い、耳元に囁きかけてくる。
「辛い?」
う、ううと繰り返す朋也に、気遣うような優しいキスが施された。
「俺も、中、すっげキツイ―――けど、ローションもナシでこんだけ滑るなんてホントありえないって感じ、ちょっとヤバイくらいキモチイイし、どうしよ俺、こっちでクセになっちゃったら―――」
「普通に、女の子の彼女作れば、いいだろ」
投げやりにこたえると、困ったように浮かべられた笑みが朋也に再びキスをした。
「ばぁか」
甘ったるくて、多少詰るような声。
「お前じゃなきゃイヤなんだよ、知ってるくせに、イジワル言うな」
同じ声が次いで「動くぞ」と告げた。
目を閉じ、きゅと唇を噛み締める朋也の頬に唇が触れて、内側で張り詰めていた圧倒的な熱量が、ぐちゅ、と音を立てて膣壁を擦る。
「んあッ」
強張る朋也の体を陽介が押さえつける。
様子を伺いながら始められた抽送に朋也は息を呑み、陽介の背中に爪を立ててすがり付いていた。
「あっ、あッ、ダッ、だめ!」
「何が、だめなの?」
「ダメ、っだ、こんなの、ないッ」
「どうして?」
「だ、って、俺ッ、男、で、こんなの、こ、んな、に、イッ」
「いいの?朋也」
「う、ヤだ、イヤ、イヤぁ」
「嫌じゃないだろ、気持ち良さそうな顔して、ウソツキはオシオキするぞ?」
一際強く穿たれて、反らせた喉をヒュッと鳴らす。
イヤイヤと首を振る朋也をあやすように何度もキスをして、陽介が耳元で熱っぽく囁いていた。
「朋也、朋也ッ」
「あッ、んんッ、陽介、ようッ、すけぇ!」
―――気遣う事も忘れて、激しく腰を打ちつけながら、陽介は夢中で乳房をしゃぶり、朋也に口付けをする。
肌同士がパンパンとぶつかり合う音を聞きながら、あふれ出す想いに朋也も体中を震わせて、歓喜の渦に飲み込まれていった。
再び、唇を重ね合わせると、貪りあうようなキスをして、一気にスパートをかけた陽介の劣情が朋也の最奥で吐き出された。
「ひああああッ」
仰け反る体をしっかりと抱きしめる陽介も、ギュッと目を瞑り悦びに浸る。
達した快楽はそのまま緩々と弛緩に繋がり、半ば意識を飛ばし痙攣している朋也の上で、陽介は熱い息を吐き出していた。
やがて、一仕事終えた男根をズルリと引き出すと、朋也の股間から赤いものの混じった白濁液がどろりと溢れ落ちた。
やっぱり処女だったのかと言われて、朋也も、やっぱりそうだったのか、と、お互い変な納得をする。
再び覆いかぶさってくる温もりに、朋也と陽介はどちらともなく視線を結び合わせていた。
「大丈夫?」
「ん」
窺うような表情と、ちゅ、と啄ばむようなキス。
顔を上げた陽介はすっかり蕩けきった表情で笑う。
「朋也、サイコーだった―――」
「そう」
「も一回したい」
「ダメ―――いい加減、家に電話しておかないと―――それに、夕飯まだだろ」
「なんかうまいもん作ってくれるの?」
「ん、ありあわせ、だけど」
「いーよ、朋也が作ってくれるなら、何だって最高にウマい」
「調子いい」
チュ、チュと再びキスをして、起き上がった陽介が、グッタリしている朋也に手を貸してくれた。
ついでで抱き寄せられながら、朋也は疲れた溜息を小さく吐き出していた。
なんと…まだ続きよるよ…!