Endless waltz 5

 

ここは特別公立天照館高校男子寮。通称蛍雪寮と呼ばれるおんぼろ建造物の一室にて。

「じゃ、じゃーん!」

晃が取り出した一升瓶には鬼殺しという厳しい名前の札が貼ってあった。

「うわあ、凄いですね御神さん!」

目を丸くする誠と。

「うわあ、ヘビーだねえ、どーしちゃったのよコウちゃん」

半分あきれ返っているような崇志と。

「それ、一体どうやって手に入れたの?」

怪訝な表情の豊、そしてだんまりを決め込んでいる薙。

天照に一時的に籍を置くことになったペンタファングの面々と交流を深めるというたいそうなお題目の元、寮生活を送る男子五名のささやかな酒盛りがここに始まろうとしていた。

もっとも、名目はあくまで建前、本音は年頃の男子高校生らしくバカ騒ぎをしたかっただけなのだが、主犯の晃と崇志が結託して、共犯者を増やすべく宴会という形式を選択したに過ぎない。

巻き込まれたのは天照館執行部に籍を置く二名と、彼らの頑ななリーダー一名。

それでも豊と誠は元来の性質ゆえか比較的すんなり承諾してくれたのだが、薙を誘い出すのが一苦労だった。

「そんな行為は必要ない」

晃と崇志が交互に頼み込んでも埒が明かず、困窮きわまった晃が何の気なしに口にした一言。

「せやかて、ゆんゆんも来るんやで、皆来らはるし、ナギだけ参加せんちゅうのも・・・」

「行く」

「は?」

「行くと言ったんだ、それでいいんだろう」

この時、晃と崇志は薙との交渉ごとには豊を持ち出せば大概うまくいくという事を学んだのだった。

「まあ、惚れた弱みってやつかねえ」

「は?ナギはゆんゆんとダチやろ、何キモいこと言ってんねん」

更に深い事情に勘付いたのは崇志一人きりであったが。

とにもかくにも、そんな経緯で、各自アルコールの類を持参の上、消灯二時間前に晃の部屋に集合することとなった。

晃が持参したのは件の清酒、崇志はワインとビール、誠は焼酎を、それぞれどこで手に入れたのか数本所持して現れた。

「なんや、ゆんゆんはただの炭酸かいな!」

コーラとソーダしかもってこられなかった豊は申し訳なさそうに眉を寄せる。

「そんなこと言ったって、俺や誠は面が割れてるんだし、酒なんて」

「マコはちゃーんと酒持って来よったで」

「誠は天照に実家があるからだよ、大方家からくすねてきたんだろ?」

図星をつかれて誠はエヘヘと笑う。

「それはともかく、晃やラギはどうやってそんなもの」

「なあに、俺らは郷のモンじゃないしね、まあ、ちょっと遠出してみたってわけ」

「せやけどこの辺り田舎やから、いっちゃん近いトコでもこれが限界やったわ」

「コーちゃんのソレは、ちょい趣旨が違う気もするけどね」

一升瓶を見て崇志が苦笑する。

「ネームバリューだろ、大方」

「なんやねん、格好ええやん!」

センスないねえとからかわれて、晃が崇志に突っかかっていった。

「あ、あの!」

「うん?」

「あの、飛河さんは?」

誠の一言に促されて一同が薙を見ると、今までむっすりと黙り込んでいた彼は背後から紙袋をすっと中央に差し出した。他の面々でその中身を確認して、ええっと声を上げる。

「これ、カクテル?それにこれはチューハイ、なんやねん、エールまであんで!」

「これってベルギービールですよね、僕雑誌で見たことありますよ」

「ワインまである・・・ナギ、パーフェクト!」

ペンタファングのリーダー、飛河薙はこんなところまで隙のない男だった。

感心と羨望の視線を一手に引き受けても少しも興味を示さない彼の顔を、豊が覗き込む。

「なんだ、飛河も結構楽しみにしてたんだ?」

「そんなわけじゃないさ」

「でも、一番色々もって来てくれたよね、俺酒とか苦手だから、飲めそうなのがあって安心した」

「どれだ?」

「ええとね、カクテルとチューハイ、これくらいならなんとかちょっとは」

話を聞いた途端、薙は有無を言わせずその二種類を紙袋から抜き取って豊の前に並べた。

「苦手分野のあるものは優先されるべきだ、君はこれを飲むといい」

「あ、ありがとう、でも」

「気にするな、元手は僕の支出なのだから、これらを僕がどうしようと何ら苦情を言われる筋合いなどない」

豊はちょっと驚いた顔をして、それから照れたように微笑みつつもう一度有難うといった。

こそばゆい雰囲気に他三名は各々鬱陶しそうな顔をして黙り込んでいる。

「さ、宴会や、宴会!」

晃が不必要に明るい声でパンパンと手を叩いた。

「酒も集まったことやし、早速始めんで!」

「おう、ジャンジャン行こうぜ」

「いいですね!」

豊もニコニコと笑っている。その隣では薙が、やはり無表情で黙り込んでいた。

各々はそれぞれ適当なアルコールを手に取り、杯を掲げた。

「では」

同時に手を突き出す。

「かんぱーい!」

更けゆく夜と共に、酒宴は開会されたのだった。