「ゆんゆん、ほれほれ、もっと飲みや」
「あ、や、俺はもうちょっと」
宴もたけなわ、そろそろ一時間が経過しつつある。
ワインとビールはほとんど空になっていた。清酒鬼殺しは、晃と崇志でじゃんじゃん飲んでいる、誠も幾らかご相伴に預かっていた。
「こっちの焼酎もなかなかいけるねえ」
顔を赤くして、いつもより三割り増し以上に陽気になった崇志がグラスを開けながらアハハと笑う。
「エールって、結構好きかもしれないです」
ニコニコ笑う誠も赤くなっていたが、酔っている様子は見受けられなかった。
晃は、ほとんどヘベレケ状態になって先ほどからなにかと豊に構い続けている。
「なあゆんゆん、ワイら親友やねんなあ?」
「そ、そうだけど、どうしたんだよ急に」
「うう、切ないわぁ」
晃は泣き上戸のようだった。
「ワイはペンタでアンタは執行部、結ばれへん定めなんかなあ」
「結ばれるって、晃」
「ワイらラブラブやろ、せやのに、悲恋やでこれって!」
崇志がゲラゲラ笑い転げた。
すっかり困り果てている豊の前に、ぐいとビールを突き出して晃が肩に腕を回してきた。
「さ、飲んでんか」
「え、あ、でも俺まだこれがあるし」
苦笑いを浮かべてカクテルの缶を見せると、晃は急に目を三角にして豊を睨みつけてきた。
「なんやねん!ナギの持ってきた酒は飲めて、ワイの酒は飲めへんのんかいな!」
「そ、そういうんじゃなくて、ビール苦手だし」
「飲まんと絶交や!絶対絶対絶交や!」
「そ、そんなあ」
弱りきった豊は、渋々とビールを受け取る。
匂いをかいでウウと呻くと、晃は更に腹を立てたようだった。
「しょうがないなあ・・・」
小さく呟いて、鼻をつまんでぐいと一気に飲み込む。
急にアルコールが体中に駆け巡るようだった。
「おお!ゆんゆんやるう!」
「なんや、やればできるんやん!ゆんゆんオットコ前やでえ!」
嬉しそうにやいのやいのと手を叩いて、晃と崇志がしきりにはやし立てた。
「だ、大丈夫ですか、豊さん」
心配そうに具合を窺ってくれる誠に、豊は赤い顔で平気、平気とフラフラ手を振って見せる。
「せやせや、もっと飲んどき、宴会なんやからパーッと騒がんと!」
突然後頭部を押さえつけられて、豊の口元にチューハイの缶があてがわれた。
「ちょ、ちょっと、ヤメ、ウグッ」
強引に口の中に液体を流し込まれて、豊は手足をばたばたさせる。
「ほれーほれー飲め飲めーい」
調子に乗る晃を崇志がいいぞとはやし立てた。誠がその側でオロオロと様子を見ている。
薙は、先ほどからマイペースにワインとベルギービールを一言も喋らず交互に飲み続けていた。
「っあ!」
拷問からようやく開放された豊が、半分涙目でゼイゼイと肩を上下させていた。
様子を見て晃と崇志が再びゲラゲラと笑う。
「ニャ、ニャんだよう・・・」
口の端に垂れた雫を拭こうともせずに、すっかり赤く染まった顔が悔しそうに二人を睨んだ。
「いきないこんなんするなんれ、ヒドイじゃないかァ!」
怒鳴る彼に、笑っていた二人の表情がふと固まった。
誠までがぎょっとした表情で豊を見詰めている。
「もう、バカ!信じらんない!」
手の甲で口元をぐいぐいぬぐいながら怒り続ける彼を前にして、急に妙な雰囲気になった三人が居心地悪そうに視線を宙にさまよわせた。
「あー」
崇志が、耐え切れない様子で不意にポリポリと頭をかく。
「なんっつうか、豊ちゃん、その」
「可愛い、ですねえ」
誠がゴクリと喉を鳴らした。
上気した顔、潤んだ目元、唇から喉にかけて、しっとりと濡れたその表情は、元々どちらかといえば女顔の彼を妙に艶っぽく演出していた。
酒の力も手伝って、彼らは色ばんだ目で豊を見詰める。
それは野獣の眼差しだった。
豊の方はどこかぼんやりした目を虚ろに泳がせながら、暑い、暑いといって制服のボタンに指をかけようとする。ほろ酔い気分の赤ずきんを前に、狼達は一斉に舌なめずりをした。
その途端であった。
「んあ?」
急に豊が吊り上げられたので、一同はぎょっとして視線を上に向ける。
そこには薙が、無表情のまま豊の腕を捕まえて仁王立ちになっていた。
さっきから結構飲んでいたはずなのに、酔った気配は微塵も感じられない。
全くいつもと変わらぬ動作で掴んだ腕を首の後ろに回すと、もう片方の腕で豊の腰を支えてくるりと一同に背を向けた。
「あ、れれれ、ナギ?」
「どこいくねん、オノレ」
「飛河さん、豊さんを一体どこに」
アワアワと騒ぎ立てる彼らを尻目に、肩越しの視線が冷たい一瞥を投げる。
「これ以上は、ダメだ」
薙は、固い口調で言い切って、酔った豊をひきずりながらさっさと部屋を出て行ってしまった。
バタンとドアの閉まる音でようやく我に返った三人は、唖然としたまま互いを見交わして困惑気に顔をしかめる。
「なんやねん、あれ」
晃は不満げだ。
「ナギとゆんゆん、帰っちゃったねえ」
「飛河さん、なんだか怒ってたみたいですけど、一体どうしたんでしょうか?」
理由が分からず考え込む二人を横目で見ながら、崇志だけがのん気な様子でエールをぐびぐびあおっていた。
「ま、帰ったモンはしょうがないし、消灯まで俺らだけで楽しんじゃおうぜ」
ぽんと蓋の空く音を聞いて、そやねと晃が切り返す。
「ま、元々付き合い悪い奴やねんし、気にすることないか」
「豊さんもアウトっぽかったですし、いいんじゃないですか」
「そうそう、まこっちゃんもなかなか分かってきたじゃなーい!」
アハハと笑いあって、部屋には再び活気が戻ってきたのだった。
「さ、飲むで!」
「コーちゃんイッキしてよ、イッキ!」
「では僭越ながら僕が」
「マコ!エエでエエで!」
青春花盛り。笑い声と共に夜は更けていく。
この三十分後に、近隣の生徒の苦情を受けた石見教員が部屋に乗り込んでくるとも知らずに。
「若林誠、イッキ、行きます!」
「オオー!」
楽しげな気配は終わりを知らないようだった。
法律も校則も無視したバカ騒ぎは、もしかしたら彼らの心をちょっとだけ近づけて、建前で打ち上げたお題目をひとまず果たしたのかもしれなかった。
(了)
※未成年の飲酒は法律で禁止されています、一応注意しておくからねv
・・・勘のいい人なら、続きがあることに気付いているはず(笑)
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